芸術文化振興基金

地域の中核劇場・音楽堂等活性化事業(公演事業、人材養成事業、普及啓発事業)

文化芸術振興費補助金助成事業令和3年度助成事業事例集

公益財団法人 岡山文化芸術創造(岡山シンフォニーホール)
(助成金額:17,761千円)

岡フィル特別演奏会

活動概要

当財団の所在地である岡山市は広域からのアクセス性が良く、またその中心部の歴史文化エリアに位置する当ホール(1991年開館)は、アコースティック音楽に対する優れた音響性能において内外から高い評価を得ている。このホールを拠点に活動する県内唯一のプロオーケストラ「岡山フィルハーモニック管弦楽団」(以下、「岡フィル」と表記。1992年設立)を文化装置として稼働させ、地域・社会に豊潤なクラシック音楽を届けることで地域社会の活性化に貢献するべく、次の5つのテーマをビジョンに掲げて事業実施をしている。

①「文化芸術性・都市ブランドの向上」
②「心豊かな教育への貢献」
③「明日を担う人材の育成」
④「社会的包摂の取組推進」
⑤「岡山の活性化」

【公演事業】

岡フィルを活用した豊かで多様な音楽芸術の創造・発信を通じて、地域に愛着や誇りが持てるよう、また岡山独自の魅力を発信することにより地域における実演芸術の振興を図ることを目指して、岡フィルの「定期・特別演奏会」を中心に質の高い音楽芸術鑑賞の機会を提供。2021年は開館30周年ということもあり、ホールの魅力を再発見できるような企画を実施した。

地域の子どもたちに向けて夏休み期間に開催する「ホールフェスティバル・シンフォニーは友達!」(昼公演)ではオーケストラ鑑賞をメインに様々な芸術文化を体験できるワークショップやバックステージツアーを実施し、施設とともに舞台芸術についての興味関心を引き出す工夫をしている。2021年は「夜公演」として“大人向け”のコンサート(指揮者の解説付き)とバックステージツアーも開催し、当ホールの魅力をあらためて実感してもらういい機会となった。

さらに、2004年から継続して開催している、岡フィルを活用した若手音楽家育成のための事業「岡フィルと共演しませんか~I am a SOLOIST~」(人材養成事業)。これまでに延べ約600人が岡フィルと共演しており、国内外で活躍する演奏家を多く輩出している。ホール開館30年を記念して、現在特に注目されている岡山県出身のソリスト3人(ピアノ/中桐望、ソプラノ/森野美咲、ヴァイオリン/福田廉之介)に焦点をあて「I am a SOLOIST スペシャルガラコンサート」を開催。

また、ジャズとクラシックの双方の檜舞台で世界的に活躍する小曽根真を迎えての「ジャズ×クラシック」の華やかなステージの鑑賞機会を提供した。

【人材養成事業】

地域の芸術文化を担うアーティスト達を育成し、表現の機会を提供することにより日本から世界へ羽ばたく人材を輩出することを目指す。また、地域の芸術文化を支えていくリーダーを養成し、地域の芸術文化の醸成を図ることを目的に事業を実施した。

「ミュージカルワークショップ」では、年間を通じてのレッスンに加え、受講生による公演を実施。2010年の開講以降、小学生~60代まで様々な年代の受講生たちが共に学び、舞台に立っている。

「I am a SOLOIST」事業出身の若手音楽家との共同企画公演「The MOST in JAPAN 2021」では、岡山県出身で「I am a SOLOIST」事業出身の若手音楽家が率いる弦楽オーケストラ公演に、オーディションで選ばれた地元の中学2年生、1年生、小学5年生が挑戦した。

公演本番に至るまでのプロセスを通して、ソリストたちは自身の成長とその結果を受け止めており、本公演が奏者の世界を大きく広げる体験の一つとなったことは明白である。

【普及啓発事業】

岡フィルや当館ゆかりの音楽家等を活用して、子どもたちへ届ける本物の音楽芸術鑑賞体験や日常的に芸術文化に触れることが困難な方々に音楽の魅力を届け、心豊かな生活を送る一助となることを目標に取り組んでいる。

青少年に向けての音楽鑑賞教室
0歳から入場できるファミリーコンサート
病院・社会福祉施設等での出張コンサート

シンフォニーは友達

シンフォニーは友達(バックステージツアー)

助成を受けて

文化芸術活動は入場料収入や会費だけでは賄えない。また、多くの地域住民に質の高い芸術鑑賞の機会を提供するためには安価であることも必要であり、経費削減に努めたとしてもそこには限界がある。

さらにここ数年は新型コロナウイルスの感染拡大状況を注視しながらの活動であり、開催の中止や動員人数の半減など活動への影響は顕著であったが、助成を受けたおかげで、安心かつ安定的に計画実践することができ、当ホールが岡山県内の音楽文化を牽引する立場にあることをふまえ、芸術活動を継続維持することが地域の人々の文化面・経済面での活動の活性化につながると考えて走り続けることができている。

助成の意義

当ホールの最大の特徴はアコースティック音楽の会場として国内有数の音響性能を有するホールと、そのホール座付きの、県内唯一のプロオーケストラである「岡フィル」を有している点である。国内有数の音楽ホールにおいて、オーケストラを文化装置として機能させることは豊かな音楽を岡山県内外に提供することに他ならない。新型コロナウイルスの感染拡大に留意しつつも、岡フィル定期演奏会や子ども向けの演奏会を停止させることなく開催できたことは、オーケストラ団員・ホール職員・観客の努力と協力によるものであった。開館30年を迎えた2021年は、岡山から世界へと羽ばたいている若手演奏家によるガラコンサートを開催し、30年の歴史の中で培われた一流の人材と共に直実に積み重ねられた当館の歴史と音楽文化芸術の振興に果たす役割を地元の皆様と共有することができた。

また、コロナで芸術鑑賞の機会が減少した子どもたちに向けて、当館を会場にした「小・中学校音楽鑑賞教室」、県内の学校・施設での「音楽鑑賞教室」を開催した。いずれもコロナ禍のため学校行事が制限された閉塞感から子どもたちの心を解放し、心を潤す時間を提供できた。実際に目の前で奏でられる生の音楽の力に触れることが、子どもたちの心に驚きと心の揺らぎをもたらし、子どもたちのなかに確固たる経験を残してやれたものと考えており、本事業の目的を果たせたと考えている。

今後の活動

当館はホール付きプロオーケストラを有することから、ホール運営の停止はそのままオーケストラの演奏活動の停止にも直結する。岡山県内における音楽芸術文化の拠点施設である当館の運営が安定して継続されることが、県内の芸術・文化活動の火を絶やさぬことにつながっているといえよう。

高い専門性を有する職員が在任している岡山シンフォニーホールを含む当財団では、新劇場(岡山芸術創造劇場)オープンを2023年9月に迎える中、財団全体の方向性の確認を行うとともに新劇場と岡山シンフォニーホールそれぞれのミッション・ビジョンの実施に向けて職員の育成が急務である。この複数館の一体的管理・運営による多様な文化芸術を創造展開できる人物・物的資源を活かし、「文化芸術都市おかやま」の構築にむけてとりくんでいきたい。また、県内の大学・専門学校からのインターンシップの受け入れ、若い人材の育成にも取り組んでいる。

また、ネットワークの構築としては、ホール周辺の美術館・博物館・図書館等の施設と平時より密に連携しており、各施設での出張演奏も行っている。さらに、2023年にオープンする新劇場も当財団が指定管理者となることから、混乱なく施設利用が可能になるように、当館の蓄積してきたノウハウを共有するとともに、新たなシステムの導入も検討している。

ホール運営と座付きオーケストラのホール内外でのより活発な活動の両方が、当財団において求められていることは明白である。専門性の高い職員を維持しつつ、次代を担う職員の採用と育成が今後の組織運営の課題となる。この点については2023年開館となる新劇場の運営を見据え、すでに対応を始めており、組織の持続的発展と活動の継続に向けて動いている状態である。

公益財団法人 岡山文化芸術創造(岡山シンフォニーホール)