芸術文化振興基金

工芸原材料研究会「ノリウツギ樹皮の採取および栽培技術伝承活動」3

芸術文化振興基金助成事業令和3年度助成事業事例集

合同会社 伝統工芸木炭生産技術保存会
(助成金額:1,400千円)

左:ノリウツギ樹皮採取作業
右:栽培中のノリウツギ

活動概要

当会は伝統工芸用の木炭を生産している団体です。平成25年から、日本刀やたたら製鉄に必要な燃料炭(松炭・雑炭)や、漆芸や金工分野で研磨用に使われる研磨炭(駿河炭・朴炭)の製造に取り組んできました。平成26年には「木炭製造」技術において選定保存技術保存団体として認定を受け、生産だけでなく原木の植樹や使用者との意見交換など、複合的な活動を積極的に行っています。

本助成では、手漉き和紙の原材料であるノリウツギ樹皮の栽培と採取技術継承を目的とした活動を実施しました。ノリウツギはアジサイ科の低木で、樹皮に粘性があり、文化財修復などに必要な手漉き和紙に用いられる原材料です。

私たちは本来手漉き和紙とは関係のない団体ですが、普段行っている炭焼きは山の仕事。ノリウツギとは伝統工芸における「森林原材料」という点で共通しています。文化庁の調査によって供給が危機的になっているというノリウツギの状況を知り、何か取り組めることはないかと考えたのが活動のきっかけでした。そこで令和元年から芸術文化振興基金の支援を受け、「ノリウツギ樹皮の採取および採取技術の伝承活動」を開始しました。

助成を受けて

森林系の原材料は、活動が「長期的」になることが難しい点です。樹木が育つには時間がかかります。一度危機的状況に陥ってしまうと、それが改善されるまでには数十年単位の時間が必要です。

また今回のノリウツギの場合、これまでは天然資源から採取するばかりで栽培の前例がなく、資源量は枯渇状態でした。また採取者の高齢化や、山野での採取の危険性により採取技術自体も継承が危ぶまれていました。

助成を受けたことで、ノリウツギの持続的で安定した供給の仕組みづくりに着手することができました。つまり、採取技術の継承に加えて、栽培技術の研究という生産性の高い活動を行うことが出来た点が大きな成果だと考えています。

助成の意義

伝統工芸は、そこに携わる人の手わざだけでなく、豊かな自然環境によって成り立ってきたものです。社会において文化芸術が大切にされていくためには、その土台たる原材料も持続的に確保されることが大切です。本助成を受けたことで、その一端を担う活動を積極的に実施できたのではないかと感じています。

今後の活動

これからの伝統工芸の原材料においては、一方的な要望を投げかけるのではなく、使用者と生産者が円滑にコミュニケーションを取りながら、協力して必要量を確保していく姿勢が大切だと実感しています。当会も「使用者」「生産者」どちらかの立場にとどまらず、自ら考え取り組む団体でありたいと考えています。

合同会社 伝統工芸木炭生産技術保存会