芸術文化振興基金

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」

芸術文化振興基金助成事業令和3年度助成事業事例集

福岡市(福岡市美術館)(助成金額:792千円)

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」展示風景
撮影:山﨑信一(スタジオパッション)

活動概要

田部光子(1933年生まれ)は日本統治下の台湾に生まれ、1946年福岡に引き揚げ、絵画を独学し、〈九州派〉の主要メンバーとして活動した美術家です。その後も福岡の美術界だけでなく、表現を志す女性たちをも牽引してきました。本展覧会では、1974年に主宰した女性画家のグループ〈九州女流画家展〉をはじめとするこれまでほとんど紹介されることのなかった1970-80年代を含む、〈九州派〉時代から現在までの田部光子の活動を作品と資料によって明らかにしようとするものです。

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」ポスター

助成を受けて

助成をいただきました「田部光子展」は、福岡市美術館では企画展という枠の展覧会です。この企画展は、規模は特別展ほど大きくはありませんが、学芸員の研究成果を展覧会という形で結実させるものとして開館以降続いてきたものです。各所より作品を借用することはもちろん、図録を制作し記録を残すことも重要視しています。しかしながら近年は作品輸送費や会場造作施工費、印刷費の高騰の影響も受け、本助成がなければ実現が厳しい状況にありました。

助成の意義

今回助成をいただいたことで、東京都現代美術館や熊本市現代美術館に所蔵されている作品の借用も可能となり、久しぶりに田部光子の代表作が一堂に集まりました。充実した内容の図録も作ることができました。

福岡の前衛美術集団〈九州派〉についてはこれまでにも研究の蓄積がありましたが、メンバー個々の活動に焦点を当てた研究・展覧会はいまだ途上にありこれからです。本展覧会は、田部光子という美術家を〈九州派〉のメンバーという文脈だけでなく、福岡の美術状況そして戦後美術史上に位置づけることができたと考えています。それは十分に評価されてこなかった美術家に光を当てるというだけではありません。今回展覧会を実施するなかで実感したのは、田部光子の作品と活動が今もアクチュアルなものとして受け止められたということ、そして田部が美術を通じて示し続けてきた「希望」が鑑賞者一人ひとりを勇気づけていたということです。

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」展示風景
撮影:山﨑信一(スタジオパッション)

今後の活動

今後も福岡という地域性を重視しながら、九州の美術に新たな光を当て、多くの人に知っていただく機会を作っていきたいと考えています。

福岡市(福岡市美術館)