歌舞伎公演ニュース

2023年9月28日

初代国立劇場さよなら特別公演

10月歌舞伎公演

『妹背山婦女庭訓<第二部>』

尾上菊之助、中村梅枝、
中村米吉が
意気込みを語りました!

 初代国立劇場歌舞伎公演の集大成として、義太夫狂言の名作『妹背山婦女庭訓』を9月・10月の2か月連続で通し上演しています。完結を迎える10月公演に先立ち、尾上菊之助、中村梅枝、中村米吉が意気込みを語りました!



[左より]中村米吉尾上菊之助
中村梅枝

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尾上菊之助
(杉酒屋娘お三輪/采女の局)

 初代国立劇場がフィナーレを迎えます。私も小さい頃から国立劇場に出演させていただいておりましたが、この公演が最後となり、本当に寂しい思いでいっぱいでございます。次の国立劇場に向かっての一歩と思い、共演する梅枝さん、米吉さん、そして先輩方と一緒に、この最後の舞台をしっかりと勤めたいと思っております。

 お三輪は10年ぶりでございます。10年前に坂東玉三郎のお兄様に教えていただいたことを思い出しながら、今回勤めたいと思います。
「婦女庭訓(おんなていきん)」という題名から“女性がどうあるべきか”というお芝居かと捉えられがちですが、私はそうではないと思っています。第一部の「吉野川」もそうですが、相手のことをどれだけ思えるかという、日本人の大切な心がこの中には描かれています。お三輪も、どうしても求女に会いたいという一途な気持ちから、官女たちにいじめられ徐々にそれが嫉妬の念に変わり、その血によって思い人の願いを叶え、疑着の念が崇高なものに変わっていきます。それはきっと求女のことを思って彼女が進んでいった道なのだと思います。

 求女が持つ苧環(おだまき)の色は赤、お三輪は白です。赤は「赤い糸」と昔から言われている通り、現世で繋がっているという象徴で、白い糸と言うのは現世では繋がっていない事を表しているのだと思います。鱶七に刺されて、お三輪は白い苧環を抱えて死んでいきますけれど、小道具に変わりはありませんが、きっと最後にはあの苧環は赤く染まっていき、お三輪は現世では叶えられなかった思いが、来世ではきっと遂げられると信じて死んでいくのだと思います。そうした一途な思い、切なくて儚い恋の物語というものをお客様と共有できればと思っています。

 私たち菊五郎劇団は、毎年のようにお正月公演として、国立劇場で新作・復活の作品を創らせていただきましたから、「お正月と言えば華やかな国立劇場!」が早く帰ってきて欲しいなと思っています。また、国立劇場は「ナショナルシアター」ということで、外国の方を受け入れる劇場として日本の顔となるような劇場になっていただきたいとも思っていますし、顔となるにふさわしい舞台を届けられるように自分も研鑽していきたいと思っています。

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中村梅枝
(烏帽子折求女 実ハ 藤原淡海)

 国立劇場には様々なお役で出演させていただき、勉強の機会を多く与えていただきました。そのフィナーレの9月・10月、2つの舞台に出られるという事をとても光栄に思っております。
 第一部の9月に出演させていただき、『妹背山婦女庭訓』がどれだけ大作かということも強く感じておりますし、国立劇場の最後を飾るにふさわしいと作品だと思うので、素晴らしい「さよなら特別公演」に出来るように精一杯頑張りたいと思っています。

 今回が初役になり、求女は父(中村時蔵)に教わります。なかなか藤原淡海だというところも見せませんし、とてもイメージの難しいお役です。
 国家の為、鎌足側の正義の為、自分に惚れた橘姫に「十握の宝剣(とつかのほうけん)」を盗んでくるよう命じるという不実にみえるようなところもありますが、それが単純にそういう風に見えてしまうような役の作り方をしてはいけませんし、また時代背景が大化の改新ということで、王朝物としてもかなり風格のあるものですから、求女、橘姫、入鹿で、その背景的なところを表現できるように勤めていきたいと思っております。

 第一部で「吉野川」に出演しましたが、非常に“ピリッ”とした雰囲気・空気感が舞台に流れておりました。
 原作者・近松半二がこの「吉野川」の場にどれだけ心血を注いだのかというのは、義太夫の詞章からも伝わってきます。登場人物がほぼ4人しかいない中、約2時間のお芝居を、あれだけの道具を使い、あれだけの熱量の義太夫の語りの中、その熱量に負けないほどの芝居をしなければ成立しないというのは、やはりすごい作品です。そしてその後に「三笠山御殿」があるというのも、この作品が大作たる所以ではないでしょうか。
 「三笠山御殿」も「吉野川」も演出としてよくできていて、無駄がなく、お客様も舞台空間と一体となって、ある種ファンタジーの世界に入り込めるようになっています。それは長年役者をはじめとする、色々な人たちがこの作品に関わり、様々なものを「出して」「そぎ落として」を繰り返し、現在に至っているからで、その長い年月にわたってかけられてきた熱量がここに集約し、それがこの作品の大きさ、重みになっているのだろうと思います。

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中村米吉
(入鹿妹橘姫)

 私も国立劇場ではいろいろな経験をさせていただきました。10月の公演で一旦閉場となりますが、最後の公演に出演させていただけることを本当にありがたく思っております。
 今回、『妹背山婦女庭訓』の「三笠山御殿」のお三輪のくだり、私自身いつかは演じたいと思っている女方の大役のお芝居の中で、橘姫という恋敵のお役を勉強させていただけることを本当にありがたく思っております。

 「三笠山御殿」の橘姫は以前中村雀右衛門のおじ様のお三輪の時に勤めさせていただきました。道行は初役でございます。今回は上演されることが珍しい「奥殿・入鹿誅伐」の場がございます。橘姫はそこでお三輪と同じように、求女のために死んでしまいますが、橘姫という役が「三笠山御殿」だけを見るよりも、様々な側面を見せているので、さらに楽しんでいただけると思います。

 求女に「十握の宝剣」を奪い取れといわれ、橘姫は兄への恩と求女への恋との間で思い悩みます。歌舞伎の中では、色々なお姫様が、恋人や家族のためを思い行動しますが、橘姫はそれよりもう一つ上にいって「天子のため」という言葉を口にします。そこに、古い時代を背景にした“王朝物”の大きさがあるのかなと感じていて、そういった部分をしっかりと持って勤めたいと思っています。
 また、橘姫は求女のために何かをしたい、どうにかしたいという気持ちで、情熱的に恋人のために動きますが、それを歌舞伎のお姫様「赤姫」というフィルターを通して見せなければいけないところが、歌舞伎の難しさでもあり、奥深さでもあるという事を、特に古典の作品に触れれば触れるほど感じています。


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 初代国立劇場最多出演の尾上菊五郎が藤原鎌足を勤めるほか、歌六、時蔵、芝翫、菊之助ら、豪華な顔ぶれが揃います。57年にわたる初代国立劇場のフィナーレを飾る歌舞伎公演を、ぜひ劇場の思い出としてご覧ください。皆様のご来場をお待ちしております。


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