国立劇場あぜくら会

イベントレポート

あぜくらの集い
「吉田幸助を迎えて」

開催日:2月27日(火)
場所:国立劇場伝統芸能情報館レクチャー室

演奏

 

 4月・5月の文楽公演で、五代目吉田玉助を襲名披露される文楽の人形遣い吉田幸助さんをゲストにお迎えして「あぜくらの集い」を開催しました。

ご案内役は文楽の技芸員とも交流の深い落語家の桂吉坊さん。おふたりの息の合った楽しいお話に会場は笑いの連続でした。

演奏

 

◆大反対した父が師匠 幸助さんと吉坊さんはもともと旧知の仲。おふたりの出会い、文楽と落語の世界の違いなど軽快なやり取りから会場の空気が暖まります。

上方落語にも『義経千本桜』をパロディにした『猫の忠信』などの演目があり「大阪弁は時代につれて変わっていきますが、文楽の浄瑠璃は変わらない。文楽をよく勉強しなさいと、師匠の桂吉朝や大師匠の桂米朝から教えられました」と吉坊さん。

一方、父は吉田玉幸、祖父は三代目吉田玉助という文楽人形遣いの家に生まれた幸助さん。幼い頃から劇場の楽屋が遊び場で、三味線や人形遣いのまねごとをしていたそうです。「たぶん大先輩の皆さんに可愛がってもらったと思うんですが、あまり記憶がなくて(笑)。でも古い劇場のニカワの匂いなどはよく覚えていますね」。

職業として人形遣いを目指そうと思い始めたのは、中学生になってから。父の大反対を押し切って文楽の世界に飛び込みました。「それまで〝パパ〟と呼んでいたのが、入門したその日からは師匠と弟子。もちろん家でも敬語です。舞台が終わって師匠が家に帰ってくると、そこから一時間はお説教。なかなかご飯も食べられない。そんな毎日でした」。

玉幸さんは立役遣いとして知られ、幸助さんも立役を中心に修業を重ねています。「立役の勉強ばかりして来たので、勉強会で『戻り橋』の若菜の役がついたのですが、誰に教わればいいのかわからない。困っていたところ吉田簑助師匠が教えてくださったんです。」という貴重なエピソードも。

 

演奏

 

◆地道な稽古が花開く ここで吉坊さんが、「太夫さんのお稽古は床本を前にして師匠と一対一で教わるそうですが、人形のお稽古はどのようなものですか?」と尋ねます。

幸助さんいわく「人形の稽古はイメージトレーニング」とのこと。「まず役をもらったら、振りを覚えるために台本に書き込みをしながら〝虎の巻〟を作ります。それから何回も曲を聞いて、自分が遣っているような感覚で頭の中で振りを当てはめていきます」。

このイメージトレーニングだけで、本番では主遣い、左遣い、足遣いの三人の呼吸がぴたりと合うわけです。やはり長い年月をかけて修業した蓄積の賜物といえるでしょう。

足遣いから左遣いへ、そして主遣いへと昇格していく際には、抜擢によって大きなチャンスを摑むこともあります。「足遣いを卒業して左遣いに上がった頃は、あまり動かない役やツメ人形が多かったですね。でもツメ人形もちゃんと勉強していないと難しいんですよ。人形に足がないので軸がブレやすいんです。先代の吉田玉男師匠から『袂を動かしたらあかん』と教わって、その稽古をずっとしていました。

そのお陰で桐竹勘十郎兄さんが襲名披露をされた時に、『絵本太功記』の光秀の左遣いに抜擢していただきました。左があまりつかない時期でも、くさらずに基本の稽古を続けていたことが認めてもらえたのかな」。幸助さんのお話に、吉坊さんも「チャンスを生かせるかどうかは自分自身の研鑽次第ですね」と感心しきりです。 

 

◆肚の据わった大きな芸を 「祖父・玉助の名跡はいつか襲名せなあかんのかな、と漠然と思っていました」という幸助さん。玉幸さんの没後十年が過ぎた頃、この漠然とした思いは現実味を帯びてきました。

「若輩ながら皆さんのお力を借りて襲名をさせていただきたい、と簑助師匠に手紙を書いてご相談したところ、しばらくして『おめでとう』と言っていただきました」。

襲名が決まったとき、幸助さんは玉助襲名を願っていた亡き父・玉幸さんに四代目を追贈することを願い出て、文楽では異例のことだそうですがその願いが叶いました。 

 

襲名披露狂言は、祖父の襲名披露狂言であり、父も演じたことのある『本朝廿四孝』の「勘助住家の段」で、山本勘助を勤めます。「三代目玉助はどっしり肚の据わった大きな芸だったと、色々な方から聞いています。私も場を締められるような玉助像を目指していきたい」と、力強く目標を語った幸助さん。

「古典芸能に触れる機会が少ない若い世代の方にもメッセージを」という吉坊さんに促されて、「以前、文楽は〝聴きに行く〟ものでしたが、最近は聴くことはもちろん、人形を楽しんでくださるお客さんも多くなりました。人形の動きは緻密で繊細になり、計算された動きによって、人間よりも人間らしさを表現できます。また、何よりも文楽が凄いのは、太夫、三味線、人形という三業の芸がぶつかり合っているところです。どんなきっかけでも構いませんから、年輪を重ねるほどに深みを増す文楽の芸を、色々な角度から楽しんでいただきたいですね」。 途中、幸助さんが主役の主遣いを勤めた『国性爺合戦』『義経千本桜』『夏祭浪花鑑』の映像鑑賞も挟んで、最後の質問コーナーまで、大いに沸いた今回の「あぜくらの集い」。率直で飄々としたユーモアを漂わせる幸助さんの魅力をみごとに引き出した吉坊さんの話術も素晴らしく、おふたりの今後の活躍と、襲名への期待が膨らみました。

五代目玉助襲名披露公演に乞期待を!  

 



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