平成30年12月歌舞伎公演│12月3日[月]~26日[水]

独立行政法人 日本芸術文化振興会
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通し狂言|増補双級巴|四幕九場

中村吉右衛門宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候

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    天下を狙う大盗賊・石川五右衛門―その人間像に焦点を当てた波瀾万丈の物語。

    初代中村吉右衛門が手掛けた五右衛門物の傑作に当代吉右衛門が挑む、待望の通し上演!

    • あらすじ・見どころ
    • 五右衛門と秀吉
    • 初代吉右衛門の石川五右衛門

    主な配役主な配役

    • 動画_中村吉右衛門からのメッセージ
    • 中村東蔵の義輝御台綾の台
    • 中村歌六の壬生村の次左衛門
    • 中村雀右衛門の五右衛門女房おたき
    • 中村又五郎の三好修理太夫長慶
    • 中村錦之助の足利義輝
    • 尾上菊之助の此下藤吉郎久吉

    太閤秀吉の寝首をかこうとして捕らえられ、釜煎りの刑になったと伝えられる大盗賊・石川五右衛門(いしかわごえもん)。この作品は、五右衛門を題材にした複数の作品を繋ぎ合わせ、五右衛門の生涯を綴った一つの物語として構成されています。盗賊としての痛快な活躍だけでなく、家族への情愛や胸中の葛藤に焦点を当て、五右衛門の人間像を描いています。

    幕末から明治にかけて繰り返し上演されましたが、大正・昭和初期には、初代中村吉右衛門が五右衛門をたびたび演じました。今回、その五右衛門を当代吉右衛門が継承し、〈通し狂言〉として新たに補綴した台本で勤めます。五十年ぶりの上演となる「五右衛門隠家」を中心に、七十年ぶりの「壬生村(みぶむら)」や九十年ぶりの「木屋町(きやまち)二階」の復活に大きな期待が寄せられます。

    あらすじ

    大名の胤(たね)を宿す奥女中が百姓・次左衛門(じざえもん)に金を盗られて殺される「芥川(あくたがわ)」。この時に生み落とされた赤子が、次左衛門に育てられて成長し、二十六年後の「壬生村」で石川五右衛門となって登場します。次左衛門は、盗賊となった五右衛門を諫めて自害を図り、誤って愛娘を死なせます。五右衛門は、生みの母が所持していた系図を次左衛門から見せられ、自分が西国の大名・大内義弘(おおうちよしひろ)の遺児であることを知ります。

    中村東蔵の義輝御台綾の台
    中村歌六の壬生村の次左衛門

    天下を狙う野望を抱いた五右衛門は、勅使に化け、将軍・足利義輝(あしかがよしてる)の館に乗り込みます。そこに、竹馬の友・此下藤吉郎久吉(このしたとうきちろうひさよし)[後の真柴筑前守久吉(ましばちくぜんのかみひさよし)]が現れて、勅使の正体を見顕します。五右衛門は葛籠(つづら)を背負って空中に姿を現し、悠然と飛び去ります。この作品で考案された“つづら抜け”の宙乗りをご覧いただきます。

    中村雀右衛門の五右衛門女房おたき
    中村又五郎の三好修理太夫長慶

    以上の出来事が、本作では、実は京・木屋町の宿屋の二階で寝ていた五右衛門の夢だったという設定です。巡礼に変装した久吉が通り掛かり、お尋ね者の五右衛門の姿に目を留めます。「木屋町二階」は歌舞伎の名場面『金門五山桐(きんもんごさんのきり)』の〈南禅寺山門〉を世話風に仕立てたパロディーです。

    町中(まちなか)に身を潜める五右衛門の隠れ家では、後妻のおたきが先妻の子の五郎市(ごろいち)を邪慳に扱い、五右衛門は夫として、父として、葛藤します。五郎市は誤っておたきを刺しますが、おたきは五郎市の将来を案じる心の内を五右衛門に明かし絶命します。五右衛門は妻の本心を知って涙に咽(むせ)びます。盗賊であるがゆえに妻子への情愛が五右衛門に深い苦悩をもたらします。一人の人間として描かれる五右衛門の姿は胸に迫ります。京の郊外・藤の森で、捕手に追い詰められた五右衛門の前に、五郎市を捕らえた久吉が現れます。久吉の温情ある申し出を断った五右衛門は、縄を打たれて静かに最期の場に向かいます。

    中村錦之助の足利義輝
    尾上菊之助の此下藤吉郎久吉

    波瀾万丈の運命を辿る五右衛門を吉右衛門が勤め、周囲を彩る登場人物にも好配役が揃いました。盗賊として生きた石川五右衛門の人間ドラマをお楽しみください。

    • 『木下蔭狭間合戦』(文久3年9月中村座)3代目歌川豊国画(国立劇場所蔵)

    五右衛門と秀吉

    安土桃山時代に実在したとされる大盗賊・石川五右衛門――。その実像は謎に満ちていますが、五右衛門にまつわる伝説や逸話は、その後の創作物の恰好のモチーフや題材となり、五右衛門という人物のイメージに大きな影響を与えています。

    石川五右衛門の生年や生国は未詳ですが、一説には戦国大名・三好氏の家臣・石川明石の子と言われ、大きな体躯に30人力とされる強力の持ち主で、16歳の時に主家の宝蔵を破って黄金造の大刀を奪い、その後諸国を放浪して盗みを働いたとされます。そして文禄3年(1594)に捕縛され、京・三条河原で一子とともに釜煎りの刑になりました。これが37歳の時とされています。釜煎りの刑の際に詠んだとされる「石川や濱の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」(砂浜の砂が尽きるようなことがあっても、この世から盗人になる人がいなくなることはないだろう)という一首は、五右衛門辞世の句として知られ、その後多く引用されることになりました。

    五右衛門にまつわる伝説・逸話の中には、同時代の権力者・豊臣秀吉と関わるものがあります。中でも有名なのが「千鳥の香炉」にまつわる伝説で、秀吉の手元にあった天下の名作「千鳥の香炉」を盗もうと五右衛門が秀吉の寝所に忍び込んだ時、この香炉の蓋につけられた千鳥が啼いたため捕えられたと言われます。ちなみにこの「千鳥の香炉」は現在、徳川美術館(財団法人徳川黎明会、愛知県名古屋市)に「青磁香炉 銘 千鳥」として所蔵されています。謎に包まれた大盗賊・石川五右衛門が、日本史上最大の出世を果たした天下人と絡むところにロマンが感じられます。

    他にも五右衛門が釜煎りの刑になったのは、秀吉を暗殺しようとして捕まったためとも言われています。暗殺を依頼したのは、秀吉から関白職を譲られていた甥の秀次の家臣・木村常陸介で、秀吉に跡継ぎ(後の秀頼)が生まれたために五右衛門を利用して秀吉を亡き者にしようと企んだとされます。暗殺者としての側面は、五右衛門が忍びの術を心得た人物とされたことから来ており、縦横無尽に活躍する五右衛門のイメージにも影響を与えています。

    五右衛門は後世、義賊として描かれて民衆に受け入れられた面もありますが、盗賊は為政者にとっては取り締まるべき悪党であるのも事実でした。そのため創作物において、秀吉という五右衛門が生きた時代の為政者と絡められたのも必然だったのでしょう。後世の創作の一つで、本作『増補双級巴』の先行作の一つでもある『木下蔭狭間合戦(このしたかげはざまかっせん)』では、五右衛門と此下当吉(秀吉)を竹馬の友として登場させており、人物造形や物語の筋立てにさらなる起伏を与えることになりました。

    この設定は『増補双級巴』にも引き継がれ、本公演では、「足利別館」「木屋町二階」「藤の森明神捕物」で両者が顔を合わせます。本作は盗賊であるがゆえに直面する五右衛門の悲哀と苦悩を描いていますが、久吉を始めとする多彩な登場人物の存在がドラマを引き立て、より見応えのあるものにしています。五右衛門物の醍醐味を凝縮した『増補双級巴』をどうぞお楽しみください。

    『木下蔭狭間合戦』(文久3年9月中村座)
    3代目歌川豊国画(国立劇場所蔵)