第3回は、『梅雨小袖昔八丈』の序幕「白子屋見世先の場」で、主人公・新三が忠七の髪を撫で付ける時に使う髪結道具をご紹介します。
 廻りの髪結は、自分の髪結道具一式を持って得意先の商家などを訪問し、店の主人や奉公人の髪を結っていました。新三も持ち歩いている引き出し付きの道具箱は、髪結の仕事には欠かせないアイテムです。

新三の道具箱(前) 新三の道具箱(後)
収納されている髪結道具

 日本髪の髪型は、襟足の「髱(たぼ)」、頭の左右側面の「鬢(びん)」、頭頂部でまとめて結う「髷(まげ)」などの部位に分かれています。髪結は、それぞれの部分に応じた道具を使い分けて、スムーズに美しい髪型を造り上げます。

 道具箱の側面には、髷を仮留めするための細長い紙「茶半紙(ちゃばんし)」と、髪を整え髪型を保持するための油「鬢付け油(びんつけあぶら)」が取り付けられています。新三はまず、忠七の髷を茶半紙で留めた後、鬢付け油を叩くように手に付け、指でこすり合わせながら忠七の髪に馴染ませます。


鬢付け油
茶半紙


 引き出しの中には、髪を美しく結うための道具が並んでいます。
 新三が忠七の髪に櫛で液体を掛けるようなしぐさをしますが、これは、「鬢盥(びんだらい)」に入った「鬢水(びんみず)」を付けている様子です。鬢水は、マツブサ科の常緑樹・サネカズラの茎を刻み、皮を剥いて水に漬け置く事で得られる粘水で、髪のつやを出したり、ほつれを解いたりするために用います。続いて新三は、鬢付け油を付け直したり、「握り鋏(にぎりばさみ)」で毛先を揃えたりしながら、髷を整えます。この時に、一本の櫛の両端に目の細かさの違う歯を挽いた道具「刷毛こき(はけこき)」を用いて毛筋を整えることもあります。


鬢盥
(左より)刷毛こき、櫛、握り鋏

 箱の上部には、鬢の形を整えるために使う鉄製の棒「髷棒(まげぼう)」が刺してあります。髪結職人は、自分専用の髷棒を持ち、自在に操れるようにならなければならないと言われています。現代でも、歌舞伎や大相撲の床山(とこやま)は、畳針や金属製の箸などを竹の管に刺して、髷棒を自作しているそうです。


髷棒

 道具箱の引き出しの中には、舞台で使用する道具以外にも、様々な種類の櫛や剃刀、髪の根元を結い束ねるために用いる紐「元結(もっとい)」などの髪結道具が並んでいます。

(左より)なぎなた、剃刀、鬢出し
(びんだし)2本、筋立て(すきたて)
元結

 髷棒を髪に挿し、元結を繋いで作った襷を掛けて颯爽と登場する新三。忠七を言葉巧みに唆しながら、これらの道具を使ってテンポ良く髪を撫で付ける演技は、写実的な表現を取り入れた世話物の作品ならではのみどころです。ぜひ劇場へ足をお運びいただき、鮮やかな手際を皆様の目でお確かめ下さい。