【三段目】
- 車曳の段
- 茶筅酒の段
- 喧嘩の段
- 訴訟の段
- 桜丸切腹の段
斎世(ときよ)親王の舎人桜丸(とねりさくらまる)と菅丞相(かんしょうじょう)の舎人梅王丸(うめおうまる)は、藤原時平(ふじわらのしへい)の牛車に襲い掛かります。梅王丸、桜丸と時平の舎人松王丸(まつおうまる)とが対峙する内、時平が睨む眼光に梅王丸と桜丸も体がすくんでしまい、襲撃は未遂に終わります。
様式美に彩られた一幕。三兄弟のそれぞれの個性とともに、彼らが仕える主君たちの立場が政変によって影響を受ける様子が描かれます。
三兄弟の父・四郎九郎(しろくろう)は齢七十を祝され丞相から白太夫(しらたゆう)の名を拝領します。その誕生日に屋敷で賀の祝いが行われ、三兄弟の女房たちが集まります。白太夫は、まだ到着しない三兄弟の代わりに菅丞相(かんしょうじょう)が愛でた梅松桜の樹を兄弟に見立て蔭膳(かげぜん)を据え、雑煮を祝い、参詣に出かけます。白太夫と入れ違いに梅王丸(うめおうまる)と松王丸(まつおうまる)が登場します。二人の間で遺恨が再燃、大喧嘩となります。二人が取っ組み合う内、三本の樹の内の桜の樹が折れてしまいます。
白太夫は菅丞相(かんしょうじょう)のいる筑紫に旅立ちたいと願う梅王丸に、御台所(みだいどころ)や菅秀才(かんしゅうさい)の安全確保が先だと叱りつけ、松王丸にはあくまで時平へ忠義を尽くそうとする姿勢をなじり、梅王丸と松王丸の両夫婦は追い出されます。
白太夫と桜丸(さくらまる)女房・八重(やえ)との二人きりになった屋敷の奥から桜丸が現れ、自分が斎世(ときよ)親王と苅屋姫(かりやひめ)との仲立ちをしたことが菅丞相の配流に繋がった責任を感じ切腹します。白太夫は、嘆き悲しむ八重に定業(じょうごう)と諦めざるを得ないと無念の心境を語り、念仏を唱え介錯として鉦撞木を打ち、息子の最期を見送ります。白太夫は忍んでいた梅王夫婦に後事を託し、悲しみのうちに筑紫へと旅立つのでした。
老人・白太夫の姿そのままに滋味あふれる場面“佐太村(さたむら)”。悲劇的な最期を遂げる桜丸とそれを見送る人々の嘆きが涙を誘います。
初手に桜を取らしてたべ、
上がらせ給へと再拝祈念。
取り上げた扇開けば梅の花、
南無三これは叶はぬ告げか、
神の心を疑ふ御籤の取り直しはせぬものなれども、
助けたいが一杯で、取り直す次の扇。
今度も、今度も違ふてまた松の絵。
頼みも力も落ち果てゝ、
下向すりや折れた桜。
定業と諦めて腹切刀渡す親、
思ひ切つておりや泣かぬ。