初代国立劇場を語る
2023.09.05 更新

初代国立劇場を語る ⑮
機会が芸能をつなぐ 雄勝法印神楽保存会

千葉文彦(会長)・阿部久利・千葉秀司(大浜葉山神社 宮司)

影響残る現在

国立劇場には平成22年6月に初めて出演しました。その翌年3月が東日本大震災。まだまだ大きな影響は残っていますが、行政の復興プランに則って、復興の最後尾を何とかえっちらおっちら歩いてついていっています。神楽を演じる機会だった地域のお祭りも、人が減り、また、いまは感染症の影響でも変更を余儀なくされています。ただ、今年はようやく春の例大祭も開催の運びとなりました。神楽を実演する表舞台としても必要ですのでうれしく思っています。

雄勝法印神楽『鬼門』
(平成22年(2010)6月 第115回民俗芸能公演より)

復興支援公演への出演

平成25年2月には、国立劇場の復興支援公演のお話をいただいたのですが、果たして出演できるのかについては、保存会内でもかなり葛藤がありました。それでも、国立劇場さんから、頑張って演じている姿を観てもらいましょう、さらに今だからこそ上演しなくなった演目を復活しましょう、と熱心に後押ししてくださって実現しました。

この時復活した『鉤弓(ちきゅう)』ですが、ほかの演目と比べて地味な上に上演時間も1時間ほどと長く、地元でもそれほど受けのいいものではありませんでした。ただ、その前に楽しい演目『蛭児(ひるこ)』、後に派手な『産屋(うぶや)』と続けて上演することで、物語がよく分かる構成となり、お楽しみいただけて良かったです。この公演がなければそのままやらなくなった神楽だったと思いますが、その後も数回上演しています。

『鉤弓』
東日本大震災復興支援「東北の芸能Ⅱ 宮城」
(平成25年(2013)2月 第121回民俗芸能公演)

伝承の要素

文化財保護の専門家の方に伺ったのですが、震災後の祭りが残っていく要因として、「人」「道具」「場所」「機会」が重要なのだそうです。我々は震災で「場所」「機会」を失った。そこに、国立劇場さんの素晴らしい舞台という演じる機会を与えてくださったのは、本当に強い後押しだったと思っています。もちろん震災のようなものはもうあってほしくはありませんが、今後も、苦しい状況の芸能に場所や機会を提供してくださる劇場であればうれしいですね。

今後の活動

いま保存会の会員は、年齢的に難しくなって辞める人もいますが、その分20歳代の若い人も入って活動を続けています。危機的な状況の中、自分がやらなきゃと思って入ってくれているのが心強いです。それでも、梁の上に乗るアクロバティックな『産屋』では、若い人に負けじと70歳代の会長が上に上がるんですよ(笑)。

『産屋』
(令和5年(2023)4月 雄勝町での神楽奉納)

我々は変わらず芸能を伝承していきます。また、地域の祭りとともにありたいと思います。国立劇場公演では、雄勝でやるほぼそのままの演出でご覧いただけましたが、どうぞ現地での実演の様子、お祭りの雰囲気も、また違う楽しみがありますので、味わいに来ていただけたらうれしいです。

〈初代国立劇場を語る
/機会が芸能をつなぐ 雄勝法印神楽保存会〉

国立劇場は未来へ向けて
新たな飛躍を目指します