初代国立劇場を語る ⑫
国立劇場の思い出東音 宮田哲男

真剣勝負の場
国立劇場竣工の翌年、昭和42年(1967)より劇場主催の「邦楽鑑賞会」が新年を寿ぐ恒例行事として開催され、私も初回から出演させて頂き、後には立唄として三代目杵屋五三郎先生の相方を勤めさせて頂くようになりました。各流派名人揃い踏みの中で感じる緊張感は国立劇場の邦楽鑑賞会ならではのもので、この場で培われた数々の貴重な経験こそが、私の芸の大切な土台となりました。中でも、国立劇場五十周年記念を謳って平成28年(2016)10月に三日間に亘って開催された邦楽鑑賞会において、図らずも、多様な邦楽分野を代表する綺羅星の如き超一流の出演者の後を受ける形で、大トリを勤めさせて頂いたことは、誠に光栄な事でありました。

『船弁慶』に出演する哲男(上段中央左)
「邦楽鑑賞会」
国立劇場開場50周年記念公演
(平成28年(2016)10月 第179回邦楽公演)
有り難き出会い
また、国立劇場ならではの、名だたる舞踊家のリサイタルやお浚い会にも度々の有難いご指名を賜り、身に余る大舞台をどれ程勤めさせて頂いたことでしょう。そのようなご縁もあり、平成2年(1990)には、私自身のリサイタルを国立劇場で開催させて頂く運びとなりました。昼夜二部構成で全六曲を唄い、長唄界を代表する各流派のお家元自ら立三味線としてご助演下さるという、文字通り空前絶後の演奏会が叶いました事は、正に望外の喜びでありました。
わけても、当時の天皇皇后両陛下にご臨席を賜りました平成19年(2007)の「長唄東音会創立五十周年記念演奏会」の演奏終了後に、お招きに与りました貴賓室において極めて親しく長唄についてご下問賜りましたことは、生涯忘れられない思い出として深く心に刻まれております。
全ての人に感謝
劇場に残された記録によれば、国立劇場主催公演への私の出演回数は78回に及ぶとの事。加えて前述の舞踊会や各種演奏会、また私の門弟たちを中心としたお浚い会「長唄道声会」も現在まで隔年開催を重ねており、私の人生の中において、国立劇場とどれほど多くの時間を共にしてきた事かと思えば万感胸に迫ります。
数多くの公演を見事なプロ意識で支えて下さった、熟練の舞台監督、制作、美術、大道具、音響、照明、加えて誠に贅沢な舞台機構等々、全てにおいてこれほどに主催者、出演者を満足させて下さる劇場を私は他に知りません。
私たちの世代がそうであったように、新劇場が日本の伝統芸能を担い未来へとつなぐ次なる世代の人達にとっての、『新たなる精進と成長のための場』として生まれ変わることを祈念しつつ、これまで劇場の運営と活動に関わってこられた全ての皆様に心より感謝を申し上げます。
長い間、本当に有難うございました。
〈初代国立劇場を語る
/国立劇場の思い出 東音 宮田哲男〉