初代国立劇場を語る
2023.07.06 更新

初代国立劇場を語る ⑦
国立劇場とともに西川扇藏

 西川扇藏さんは、令和5年7月14日に逝去されました
 享年95歳でした
 謹んでご冥福をお祈り申し上げます

国立劇場開場と初出演

国立劇場ができるまで、日本舞踊の公演といえば、東横劇場や三越劇場、イイノホールといった場所が主でしたので、国立劇場が昭和41年11月に開場した時には、大規模な歌舞伎も上演されるような劇場で日本舞踊家が踊ることができる、と沸き立ったものです。

開場記念公演だった11月5日の第1回舞踊公演「東西顔見世舞踊」に出演しました。後に「三樹会」でご一緒することになった(初代)泉徳右衛門さんの五郎、私の朝比奈で、西川流に伝わる「草摺引」を上演できたことは今でもよく覚えています。

※三樹会……初代泉徳右衛門、西川扇藏、花柳芳次郎(二世花柳壽應)により流派を超えて結成された会で、国立劇場で数多くの公演が開催されました。

国立劇場の舞踊公演

国立劇場では、開場から57年で、170回以上の主催公演が催されたと伺っています。個人のリサイタルや流儀の会などでは規模が大きすぎて、取り上げるのが難しい作品を、様々な企画を通じて国立劇場が上演してくれたことは、戦後の日本舞踊の発展に大きく寄与したと思います。

私もたくさん出演させていただきましたが、46回も出ていたとは知りませんでした。

中でも思い出すのは、昭和63年の「狂乱物の舞踊」の「須磨」では藤間藤子先生に振りを頂きご指導賜ったことです。初めて藤子先生の踊りに間近に触れて、先生独特の振りの化粧(動きに細かなニュアンスをつけること)を習得するのに苦労したことは思い出深いです。

また、この「須磨」では藤間蘭景さん、橘芳慧さんとご一緒でしたが、こういった他流の方々との共演や、坂田藤十郎さん(当時中村扇雀)、中村時蔵さん、中村又五郎さん(当時歌昇)など歌舞伎役者の方との共演も、国立劇場の公演ならではのことだったと思います。

ホームグラウンドのように

国立劇場の主催公演のほか、「西川会」やリサイタルなどでも利用させていただきました。我々日本舞踊家にとって、国立劇場はいわばホームグラウンドと言っても過言ではありません。開場時、私は38歳、壮年期から国立劇場とともに舞踊人生を歩んで参りました。そういう意味では今回の閉場、そして約6年間、我々のホームグラウンドである国立劇場が無い、という状況を、まだ想像することができません。

『猿舞』を踊る扇藏
国立劇場開場50周年記念「舞踊名作鑑賞会」
(平成29(2017)年3月 第153回舞踊公演)

新しい国立劇場へ

新しくなっても引き続き、国立劇場としての格は失わずにあってもらいたいと思います。一方で、日本舞踊や伝統芸能に馴染みが薄い方にとっても近付きやすく、そして親しみやすい劇場になって欲しいですね。

〈初代国立劇場を語る
/国立劇場とともに 西川扇藏〉

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新たな飛躍を目指します