駿河桜
国立劇場にはもちろん歌舞伎芝居や文楽公演を観に行くことも多かったが、ここ数年は何よりも春になると駿河桜の様子を見に通った。幸い、仕事をしていたのが国立劇場から歩いて20分ほどのところなので、春にはほぼ毎日昼休みに桜の様子を見に行った。
第1回桜まつりの時に偶然通りがかり、国立劇場には色々な桜が順番に咲くのですよと教えてもらったのが最初だった。そのうちに、真ん中で咲く駿河桜に魅了された。桜の世話をしていた植木職人さんが、駿河桜は満開になるにつれ酔って紅くなるのですと笑いながら教えてくれた。本当に白い花がだんだんと紅くなっていくようすは美しかった。
新型コロナで街中が息をひそめていた時、ふと駿河桜を見たくなって仕事の帰りに国立劇場に行ってみた。暗い中でも、駿河桜は変わらず咲いており、すっかり変わってしまっていた世の中でも、私は変わらずに咲いていますと凛と教えてくれたような気がした。
その時、小劇場に灯りがあった。その月は菊之助丈の「義経千本桜」の通し上演の予定だったが休演となってしまっていた。その後、オンラインによる配信があったので、無観客のまま録画していた時だったのではないかと思う。そして、昨年改めて「義経千本桜」が上演された。配役もほとんど変わらず、3年のブランクを感じさせない熱演を楽しんだ。
このコロナでいろいろなことが、特に芸術は制約されたが、ようやくその制約も解除されてきた。そして、10月には初代国立劇場は幕を閉じる。二代目国立劇場が、駿河桜と共に新開場することを首を長くして待っている。
(匿名のお客様より)