皆様からの思い出

2023.10.04 更新

じゃあ、またね。

 国立劇場を自分のホームグラウンドだと思っていた時期があります。歌舞伎鑑賞教室がきっかけで歌舞伎を観始めたころ、興味はあるものの歌舞伎座などは料金が高いと思い込んでおり、歌舞伎を観るのは国立劇場のみ、だから自分にとって観劇のホームグラウンドは国立劇場という時期がありました。今でもそうですが2階の座席は頭を背もたれのクッションの上に乗せるととても気持ちいい。社会人初期のころは、観劇に来ているのか寝に来ているのかわからないこともありました。
 国立劇場の場合、歌舞伎鑑賞教室で若手、中堅の役者さんが主役を勤めることも多いため、役者さんの成長の過程と自分が並走する、そんな気分になることもあります。歌舞伎鑑賞教室の講師としてロックな解説で当時の高校生をわかせた中村獅童さんは、今や超歌舞伎や歌舞伎座の主役として全国区の役者さんになられました。市川右團次(当時市川右近)さん、尾上松緑さんなどもそうです。これから更なる飛躍が期待されると言えば、中村隼人さん、中村壱太郎さんなどでしょうか。ベテランだけでなく、20代の役者を中心に今後のステップとなる公演が行われるのを楽しみにしています。
 歌舞伎のほかには、秋の「京阪の座敷舞」が毎年楽しみです。地唄は眠ってしまうことも多々ありますが、緩やかな体や手の動きによって、場の空気が濃くなるのがわかります。濃い空気の中で、芸妓の恋心が濃厚に伝わったり、山村友五郎さんの「善知鳥」では親鳥の哀しみが心に切実に響きました。そして、大劇場での「京舞」公演での井上八千代さんの「虫の音」も忘れることができません。あの広い大劇場の空間と観客を八千代さんの動きが支配していました。
 ひとまず国立劇場とはしばしのお別れです。しかし伝統芸能が続く限り、再び国立劇場で観ることができると信じています。だから、今は「またね」と言って最後の国立劇場から帰宅するつもりです。じゃあ、またね。

(岩崎克則様より)

国立劇場は未来へ向けて
新たな飛躍を目指します