母娘三代 思いをつなぐ
初代国立劇場の誕生に心躍らせ、あぜくら会にも真っ先に入会したという祖母。その祖母が座っていたかもしれない席に、今私は座っている。祖母が大好きだったという二代目松緑さんの御孫さん、四代目松緑さんが、初役で大判事清澄を演じている。同じく初役で太宰後室定高を演じている時蔵さんとの、両花道での掛け合い。祖母が観たであろう二代目松緑さんの姿と、四代目松緑さんの姿が重なる。今、私は祖母と同じ感動を味わっているのだ。祖母は、私が歌舞伎ファンになるのを見ることなく他界した。だから祖母とは歌舞伎の話などしたことがない。だが、「芸能の伝承と育成」という国立劇場の担う大事業に賛同し、微力ながら携わっているのだ、という祖母の誇らしげな思いや心意気が、改めて伝わってきた。
母は、そんな祖母の面影を国立劇場の中に見ていたのか、毎月送られてくる「あぜくら会報」を大事に本棚に並べていた。
そんな祖母にも母にもできなかった経験を、私は国立劇場にさせていただいた。「教員免許状更新講習」である。様々な伝統芸能の講義をはじめ、和楽器の実演体験、大劇場の舞台見学、歌舞伎鑑賞。もちろん最終日には試験もあった。受講者も全国から集まり、私も近畿地方から参加していた方と親しくなり、国立劇場の職員さんや研修生さんが利用する食堂で、昼食を食べながら語り合った。夢のような四日間だった。母がたいそう羨ましがったのは言うまでもない。そんな母も、昨年他界した。「国立劇場、建て替えのため閉場」のニュースには間に合った。寂しそうだった。
一つの時代が終わる。祖母と母と私をつないでいた国立劇場が消える。そして、祖母も母も知らない新しい歴史が始まる。だが、初代国立劇場の誕生に心躍らせた人々の思いは忘れたくない。
そしていつか私は、新しい国立劇場の晴れ姿を、冥土の土産に、誇らしげに祖母や母に報告したい。
(匿名のお客様より)