国立劇場の夏
今から20 年以上前のことです。
私の高校時代の夏といえば国立劇場とともにありました。
箏曲部に入った私は、初めて聞く「国立劇場」での演奏を目標に、練習を始めました。なぜなら全国高等学校総合文化祭 日本音楽部門の上位4校は、夏の終わりに「優秀校東京公演」として国立劇場の舞台で演奏ができるからです。
といっても高校入学と同時に始めた箏ですから、まったくの素人。しかも、部としても初めて挑む全国大会であり、先輩たちも無我夢中で練習していたと思います。
初出場で国立劇場を目指すなんて、今だったら無謀な挑戦のように感じますが、若さあふれる高校生のチャレンジャーたちは果敢に挑み、なんと国立劇場への切符を手にすることができたのです。
憧れ続けたその日は、まだまだ残暑厳しい夏の日でした。
楽屋に入り、初めて目の当たりにしたプロの舞台。ピンと糸の張ったような緊張感は、今なお忘れられません。
真っ赤な毛氈の上に、琴台を置き、箏を乗せ、一つ深呼吸。重厚な緞帳が上がり、浴びたことのないほどの光を受け、一音鳴らしたあの瞬間は、ドキドキが爆発した瞬間でもありました。
後日、舞台上での写真を見た際に、舞台袖に置かれた「めくり」に感動しました。書道部の先生に高校名と演奏曲を書いていただきましたが、国立劇場が持つ重厚感とピッタリで、浮き上がっているかのように輝いて見えたのです。
初めて箏に触れて5ヶ月弱で、国立劇場の舞台で演奏できたことは、今でも夢のようです。
結局、高校3年間は毎年、国立劇場での夏を過ごすことができ、夏の締めくくりの大舞台となりました。あの時、同じ夏を過ごした仲間とは今でも国立劇場を懐かしみ、話に花を咲かせています。
国立劇場は、一流の芸能が披露される舞台ですが、たくさんの高校生が憧れ、切磋琢磨する舞台でもあります。
今年の夏も、国立劇場の舞台を青春の風が駆け抜けることを楽しみにしています。
(坂本洋恵様より)