皆様からの思い出

2023.05.22 更新

国立演芸場の図書閲覧室の思い出

 二十世紀が終わる頃、私が東京で三回目の転職で契約社員として採用された会社は半蔵門のそばに本社がありました。本社から離れた営業所に配属された私は、週に数回電車やバスを使って本社に書類や小切手を届けるお使いの仕事がありました。
 本社に書類を届けてから、ちょっと足を伸ばすと国立演芸場はすぐそこにありました。でも、多少時間はあったとはいえ、さすがに勤務時間中に演芸場の客席に座る余裕はなく、演芸場の中の図書閲覧室にちょっと立ち寄るくらいのことが、事務員だった私のお出かけ時のささやかな楽しみでした。
 当時の図書閲覧室は国立演芸場の入口を入って展示室の手前を左奥に入ったところにある、窓もない小さな空間でした。数人入るといっぱいな部屋にイスと机があり、その奥に目録カードが詰まったボックスがありました。資料を指定して閉架の奥から出してもらった書籍や雑誌に目を通し、大切と思った部分をコピーしてもらって会社に戻りました。そんな日々を続けた数年後、私は会社を退社して静岡の実家に戻りました。
 二〇〇三年に完成した伝統芸能情報館の図書閲覧室に、開館数年後に初めて足を運んだ時には、立派な建物と明るく広くなった閲覧室に驚きました。閲覧室にはいろいろな雑誌が手にとれるように置いてあり、部屋の隅にはあの懐かしいカードボックスを確認することができました。
 今、その場所に自分が発行した媒体(静岡落語往来・現:東海落語往来)を納めていただけていることが、少しだけ誇らしいです。

(金澤実幸様より)

国立劇場は未来へ向けて
新たな飛躍を目指します