初代国立劇場と私
舞台の幕が開く。場面は御殿、腰元が並んでいる。腰元(1)、腰元(2)、台詞を聴きながら、役者さんの名前を思い浮かべる。腰元(3)はどなただろう?わからない時は、幕間に番付で名前とお顔を確認する。国立劇場で観劇する時の何時もの習慣だ。
私が歌舞伎を観始めた頃は、昭和の名優がお元気で、名演を披露していたが、残念ながら空席が目立っていた。某優は「歌舞伎は脇役不足から滅びる」と危惧されていたように記憶する。そんな頃、国立劇場の歌舞伎俳優研修が始まった。同世代の若者が、門閥も何も無い若者が「歌舞伎が好きだから」と応募され修練を積まれると云う。心から応援したいと思った。
「稚魚の会」第2回公演「賀の祝」を観た。昭和49年8月のことだ。
春が現歌女之丞さん、八重が現梅花さん。二期生の初々しい初舞台だった。あれから半世紀の時を経て、近年は、両優の演技に感服させられるばかりだ。
昨年11月「六段目」のおかやは昔日の多賀之丞、福之助の姿を思い出し、胸が熱くなった。
今や、歌舞伎俳優の1/3以上が研修修了者だと聞くと、昭和45年に始まった養成事業が、歌舞伎の歴史に多大な足跡を残したことは間違いない。
昭和48年、歌舞伎鑑賞教室「毛抜」の感想文募集に応募し、参加賞として9月公演のチケットを頂いたのも、懐かしい思い出だ。一高校生に、過分なご褒美を頂戴し、以来本公演は勿論、公演記録映像を観る会、研修発表会、バックステージツアー等々、数多くの企画に参加させて頂いた。思い出は数えきれない。
初代国立劇場に関わった多くの方々のご尽力に感謝しかない。
最後に、新・国立劇場が開場する時には、一階席両端と三階席最後列にあった格安席の復活を是非お願いしたい。何度も通える劇場であって欲しいと願っている。
(林田由利子様より)