初代国立劇場と私
国立劇場を最初に訪れたのは、歌舞伎ファンの母に誘われて、学生のための歌舞伎鑑賞教室の時でした。広々としたロビーやゆったりとした客席、奥行がある舞台を目にした際、日本の伝統芸能を供する特別な空間を感じました。上演前に歌舞伎役者さんによる、演目やまわり舞台、すっぽんなど舞台装置の解説があり、その後幕があいた時はまるで江戸時代へタイムトラベルをしたような感覚になったものです。以降私も歌舞伎に興味を持つようになり、母と一緒に何度も国立劇場へ足を運びました。なかでも1996年、当時の市川猿之助さん(現猿翁さん)主演で上演された「四天王楓江戸粧」は昼夜通しで観劇し、宙乗りあり、早替りありの、ダイナミックでケレン味たっぷりの舞台を堪能したことを今でも鮮明に覚えています。
また外資系金融企業に勤務していたこともあり、多様な文化を持った外国の方々と働く機会がありました。その中で歌舞伎、文楽に興味をお持ちの方々を国立劇場へご招待したものです。皆さん日本建築の国立劇場の佇まいに「アメージング」と感嘆され、英語のイヤホンガイドを利用することによって、演目の内容も理解し感銘を受けられているご様子でした。このことを通じて私も国立劇場の存在意義の深さに感じ入りました。今では退職し高齢になった母のサポートケアを大切に、日々を過ごしておりますが、時折二人で観劇した演目話に花を咲かせております。
さらに国立劇場での過ごし方は観劇だけではありません。幕間を利用して、「おこのみ食堂」での食事や「喫茶室」でのお茶や季節の和菓子、お店探訪をしながらのお土産選びもお楽しみのひとときです。国立劇場で過した心地良いひとときを珠玉の想い出として記憶の宝箱に収めて、折にふれとり出すことでしょう。これからもきっと私たちの心に和みを与えてくれるにちがいありません。同時に新しく生まれかわる国立劇場に未来への希望を感じ、新たな歴史を刻む第一歩となる完成の日を心待ちにしております。
(村田清美様より)