はじまりは歌舞伎鑑賞教室
初代国立劇場の誕生は昭和41年、歌舞伎鑑賞教室は翌年から始まったとあります。通っていた高校に歌舞伎鑑賞教室のお知らせが来たのは、確か昭和44年。教室で配られた申込書を持ち帰り母に見せると「保護者も行けるのね。」と興味津々でした。
若かりし頃名古屋でよく歌舞伎を観たと言っていた母は、胸が躍ったに違いありません。当時、両親は東京に家を建てたばかりで家のローンで大変なときでした。そこに舞い込んだ歌舞伎鑑賞教室のお知らせは、図らずも私に親孝行をさせてくれました。
渋谷からバスで国立劇場に着き、母と見上げたあぜくらの建物、広々としたロビー、真新しい劇場はまぶしく、少し緊張したことを覚えています。効果音や女形の所作の説明を聞き、本編を鑑賞、古典芸能はつまらないと思っていた私も歌舞伎のとりこになりました。
大学に通い始めてからは、歌舞伎公演の発売初日に劇場窓口に行き、3階席の一番前や花道近くの席を取って、平日に母と連れ立って出かけたりしました。
社会人になると、劇場とはしばらくご無沙汰になったのですが、職場で出会った伴侶との最初のデートは、なんと国立小劇場の文楽公演でした。主人は歌舞伎も観ましたが文楽好き。華やかな歌舞伎に慣れ親しんでいた私は、地味で暗い小劇場に戸惑い、浄瑠璃を語る太夫と三味線だけの舞台回しに面喰いました。でも、いざ始まると人形は人形でなくなり、浄瑠璃と三味線は体にずしんと入ってきて驚きの体験でした。
以来、文楽東京公演には主人と時々出かけましたが、海外に駐在することが多くなり、長い間行くことができませんでした。主人が定年を迎え、また観に行けるようになったのですが、奇しくも初代国立劇場も定年、令和11年の新・国立劇場の開場を待たなければならないようです。
母とはもう一緒に歌舞伎を観ることはかないませんが、7年後に新しい国立劇場に中学生になる孫と行けることを楽しみにしています。
(駒形ゆう様より)