物語の冒頭「堀川御所の段」で、
源氏の大将・源義経は、家臣である熊谷直実と
岡部六弥太を呼び出し、それぞれに命令をくだします。
勝敗のさらに先を読む義経が下した選択とは
義経は、弁慶直筆の漢詩が書かれた制札(禁止事項を書いた立て札)を、呼び出した熊谷に手渡し、須磨の陣屋に植えてある若木の桜の傍らに立てることを命じます。
そこには「伐一枝者可剪一指(一枝を伐らば、一指を剪るべし)」と書かれていました。この制札を立て、熊谷に須磨の陣屋の桜の守護を命じます。
この命に隠された義経の真意とは……?
六弥太には、平忠度の詠んだ和歌「さざ波や志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな」が書かれた短冊を結んだ桜の枝を手渡します。忠度の詠んだ歌を勅撰和歌集に、「よみひとしらず」で入集させる旨を伝えよと命じます。
義経の計らいの意図とは…?
初段「堀川御所」「敦盛出陣」、二段目「林住家」、三段目「弥陀六内」が東京・国立劇場で上演されるのは、
昭和50年2月公演以来41年ぶりとなります。
物語の鍵である平敦盛ですが、クライマックスである「熊谷桜」「熊谷陣屋」ではその名が語られるのみです。今回上演する「敦盛出陣」では、武士としての信念を貫く敦盛の姿が描かれます。
平氏の武者として自分も戦いたい……そう願う敦盛に、隠されていた秘密が明かされます。
そして「組討」では、直実と敦盛のお互いの運命を大きく左右する一騎打ちが描かれ、有名な三段目へとつながってゆくのです。
平忠度は、平家の武将であるとともに藤原俊成に和歌を師事する歌人でもありました。
平氏である自らの運命を悟り、恋人であり師・俊成の娘である菊の前との別れを覚悟する忠度。そして心のなかには、「自分の詠んだ歌を後世に残したい」――もう一つの心の葛藤がありました。
そこへ義経からの使者・六弥太が訪れ……。