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国立能楽堂

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【千駄ヶ谷だより】国立能楽堂2月主催公演がまもなく発売です!

 2月は《月間特集 絵画と能・狂言 英一蝶(はなぶさいっちょう)没後300年》と題してお届けします。《絵画と能・狂言》は、演目と同じテーマが描かれた絵画と重ね合わせて能の魅力を味わう恒例の企画で、今回は、江戸中期の絵師・英一蝶の作品を取り上げます。洒脱な作風で知られた一蝶は、能や狂言を題材とした作品を数多く描いていており、門弟にはワキ方福王流九世・福王盛勝(もりかつ・雪岑(せっしん))がいるなど、能・狂言との関わりの深さがうかがえます。

柿山伏

 出羽の国・羽黒山の山伏が、修験道の聖地・葛城山での修行を終えて帰る道すがら、にわかにお腹が空いてきました。あたりを見回すと、たわわに実をつけた柿の木があったので、山伏はその木に登って柿を食べはじめます。そこに木の持ち主が見回りにやって来たので、山伏は葉陰に身を隠しました。様子を察した木の持ち主は、山伏をからかって懲らしめようと思いつき、わざと山伏に聞こえるように「木の上にいるのは人かと思ったが、烏だったか」と言います。その言葉に、うまく隠れおおせたと思いこんだ山伏は…。

関連絵画=「狂言画巻」より「柿山伏」

蟻通

 紀貫之が、和歌の神・玉津島(たまつしま)明神参詣に向かう途中、とある社の前を通りかると、突然に日が暮れ、雨が降り出します。しかも乗っていた馬はその場に伏し、動かなくなってしまいました。途方に暮れる貫之の前に宮守の老人が現れ、ここは物咎めをする(祟る)神を祀る蟻通明神だと教えます。社前を通る時に馬から降りて敬意を払わなかったことを神が咎めたのだと言い、和歌を詠んで神の心を鎮めるよう勧めます。貫之が蟻通明神の名前を詠みこんだ和歌を詠じ、和歌の功徳を讃えると、馬は再び立ち上がりました。心和らげた神に感謝して、貫之は宮守に祝詞(のりと)をあげるよう頼みます。やがて神楽を舞う宮人に明神が憑き、「和歌に寄せる貫之の心に感じ入り、こうして宮守の姿を借りて現れたのだ」と告げると、その姿は鳥居の陰に消えて見えなくなってしまいました。

関連絵画=「蟻通図」

節分

 節分の夜。夫が出雲大社に年取り(年越しの儀式)に出かけ、ひとり留守番をする女。そこに蓬莱(ほうらい)の島に棲む鬼が、節分の豆を拾って食べようとやってきます。美しい女に心を奪われた鬼は、女の気をひこうとあの手この手を尽くしますが、女はいっこうに心を動かしません。思うようにならず、とうとう鬼は泣き出してしまいました。すると女は「自分を妻にしたいなら」と、ある提案を切り出して…。
 恐いはずの鬼と、か弱そうに見える女、ふたりの立場と力関係が逆転していくところが見どころです。

関連絵画=「十二月風俗図」より「節分」

松風

 西国行脚の僧が須磨の浦に立ち寄り、いわくありげな一本の松に目をとめます。それは、かつてこの土地に暮らしていた海女の姉妹、松風と村雨にゆかりの松でした。姉妹の菩提を弔う僧の前に、ふたりの海女少女(あまおとめ)が現れて、自分たちが松風・村雨の亡霊であることを打ち明けます。そして、その昔、この地に蟄居した中納言・在原行平に姉妹で共に召された日々を懐かしく振り返るのでした。行平が都にもどった後、形見に残された烏帽子と狩衣を手に取り懐かしさに涙した記憶を語るうちに、思いが募った松風の亡霊は、形見の装束を身に着けて狂乱の舞を舞いはじめます。妄執に苦しむ姉妹の姿は、やがて夜明けとともに消えて行き、浜には松と吹き渡る風の音だけが残るのでした。
 見留の小書(特殊演出)により、舞の最後に松風が扇をかざして松を見る型が加わります。松の木に行平の面影を重ねる松風の恋慕の情がより強調される演出です。

関連絵画=「松風村雨図」

内沙汰

 右近(おこ)という男が、講仲間と伊勢神宮に参詣することになり、一緒に行こうと妻を誘います。喜ぶ妻でしたが、同行者の中に左近(さこ)がいると知ると、羽振りのいい左近は馬や輿といった乗り物を用意するだろうから、自分が徒歩では恥ずかしいので行きたくないと言い出しました。困った右近は、かつて左近の牛が自分の田を喰い荒らした弁償としてその牛を貰い、それに乗っていこうと提案します。牛を自分のものにするためには地頭に掛け合う必要があるので、まずは内沙汰(家で練習すること)をしてから、ということになったのですが…。
「内沙汰」は和泉流独自の作品ですが、大蔵流にはきわめて近い内容の作品「右近左近」があります。

関連絵画=「狂言画巻」より「右近左近」

小督

 高倉院が寵愛する小督の局は、中宮徳子の父・平清盛の権勢を恐れて宮中を去り、嵯峨野に身を隠してしまいました。嘆き悲しんだ院は、小督の行方を探すよう源仲国(みなもとのなかくに)に命じます。仲秋の名月の宵、箏の名手の小督は月に誘われて必ずや箏を弾くはずだと考えて、仲国は嵯峨野に馬を走らせました。予想は的中し、聞こえてきた「想夫恋(そうふれん)」の曲を頼りに隠れ家を突き止めます。一度は対面を拒む小督でしたが、熱意に打たれて仲国を招き入れます。院が切々と思いをしたためた文を受け取った小督は、自分も同じ思いでいるという返事を仲国に託します。名残の酒宴で仲国は月に心を寄せて舞い、やがて小督に見送られ都へと帰っていくのでした。
 後場で、冴えわたる月のもと、秋深まる嵯峨野へと馬を走らせる仲国の姿を描いたくだりは『平家物語』から引かれた名文で、“駒の段”と呼ばれる見せ所です。

関連絵画=「小督局隠棲図」

 

【文/氷川まりこ(伝統文化ジャーナリスト)】

●2月主催公演発売日
  • ・ 電話インターネット予約:1月10日(水)午前10時~
  • ・ 窓口販売:1月11日(木)午前10時~
  国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
  0570-07-9900/03-3230-3000(一部IP電話等)
  https://ticket.ntj.jac.go.jp/