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【現地レポート第二弾】 10月文化庁芸術祭祝典『アジアを結ぶ獅子たち』
韓国「水営野遊」特集

現地レポート第二弾は、「アジアを結ぶ獅子たち」に出演するもう一つの国外団体である「水営野遊」を特集します。
水営野遊は韓国の南部、釜山廣域市水営區に伝わるおよそ200年の歴史を誇る韓国仮面劇のひとつで、韓国の重要無形民俗文化財にも指定されています。日本では12年振り、東京では26年振りの公演となります。

さて今回の公演では、水営野遊に伝わる4つの演目を演じていただきますが、その見どころを水営野遊保存会 会長 金成律(KIMI SUNGYUL)さんにお聞きしました。

(通訳:朴原模 Park,Weonmo)

水営野遊保存会会長 金成律(Kim,Sungyul)氏水営野遊保存会会長
金成律(Kim,Sungyul)氏

キムさん:

日本のみなさん、こんにちは。私は水営野遊保存会の團長のキムです。日本での久しぶりの公演を楽しみにしています。

―私達も楽しみにしています。さて早速、水営野について教えて下さい。最初に水営野遊を見せてもらった時に印象的だったのが、獅子が虎を食べてしまう獅子舞の場でした。

キムさん:

 まず、韓国では“虎”がもっとも怖い動物とされています。例えば駄々をこねる子供やなかなか寝付かない子供に「そんなことしていると虎がでてくるよ!」などと言って大人しくさせることがあります。

―そうなんですか。そのような言い伝えがあって、獅子は強くて優しい、人々に良いことをする動物と考えられるようになったんですね。だからこそ、お祝い事などで福を招く為に獅子を舞うんですね。良く分かりました。それでは早速、最初に舞う「四季興隆」について教えて下さい。

迫力ある獅子(サジャチュム)の舞迫力ある
獅子(サジャチュム)の舞

キムさん:

 これは昔、韓国では虎による被害が、たくさん起きていたためだと思います。水営野遊の獅子舞の場で、獅子が虎を食べてしまうのは、獅子という守護神に「虎の被害から人々を守って欲しい」という願いが込められているのです。また水営の近くにある山々の稜線を守護神である獅子の姿に見立てて、その獅子が逃げてしまわないように虎をお供えしている、という謂れもあります。

―成る程。最も怖い動物である“虎”を食べてしまうの は、獅子に守って欲しいという願いからなのですね。それにそれだけ皆が恐れている虎を食べるというのは、獅子の力も示すことができますね。それでは早速、4つの場面の見所を教えて下さい。

下男のマルトゥギ(中央)と両班たち下男のマルトゥギ(中央)と両班たち

キムさん:

最初に演じるのはマルトゥギという召使が、支配層である両班(リャンバン)をやりこめてしまう「両班の場」です。5人の両班と マルトゥギの踊りはもちろんですが、双方の言葉のやりとりにも注目して下さい。幸い、この公演では字幕があると聞いてますので、会話にも気をつけていただくとさらに面白くなると思います。

―字幕の責任が重大ですね。精一杯、頑張ります。

想像上の生き物  ヨンノ想像上の生き物 ヨンノ

キムさん:

よろしくお願いしますね(笑)。では次の「ヨンノの場」の話です。ヨンノというのは、人間でもなく、しかも動物でもない、という想像上の生き物です。両班とヨンノの言葉のやり取りがあって、口で負けてしまう両班がヨンノに食べられてしまう、という話です。とても短い演目なので、ヨンノが両班を食べてしまう場面など見逃さないようにして下さいね。

―ということは、またしても字幕が重要ですね。短い演目ということで目が離せませんね。次の「爺婆(ヨンガム・ハルミ)の場」の見所はいかがですか?

キムさん:

婆は探していた爺にやっと出会うことができたら、その隣には妾がいたという韓国の仮面劇ではよく見られるお話です。爺を巡る婆と妾、この三角関係にある三人のやり取りを見て欲しいです。

仲良く踊る爺(ヨンガム)と婆(ハルミ)でしたが…
仲良く踊る爺(ヨンガム)と 婆(ハルミ)でしたが…

さて、三角関係の結末はどうなるのでしょう?
さて、三角関係の結末は どうなるのでしょう?

―ややこしい問題が起きそうな話ですね。最後はどのような結末が待っているのか興味がありますが、ご覧いただくお楽しみにお聞きするのはやめましょう。では最後の「獅子舞(サジャチュム)の場」の見所を。

水営野遊の虎
水営野遊の虎

キムさん:

やはり韓国の獅子の中でも水営野遊だけが舞う獅子と虎の争いに注目して欲しいです。激しく舞う獅子と獅子をからかう虎。結末は先にお話していますが、虎をも飲み込んでしまう獅子の強さを見て欲しいです。
それと水営野遊では昔から獅子を3人で演じるんです。今回ももちろん3人で演じますので観て下さいね。

三人で演じる獅子の様子
三人で演じる獅子の様子

獅子が虎を食べてしまう場面
獅子が虎を食べてしまう場面

―先にもお伺いしましたが、この演目では聖獣としての獅子の霊力の強さ、そして獅子の威厳が表現されているのでしょうね。
それでは最後になりますが、日本で演じる意気込みを聞かせて下さい。

キムさん:

日本は近いようで遠い所にある国、という印象があります。
今回は韓国にある数多くの伝統芸能の中で私達、水営野遊を日本に招いてくれたことをとても感謝しています。韓国の代表として、日本のみなさんに韓国の芸能の美しさ、素晴らしさを見てもらえるよう頑張ります。
私も他の保存会員も日本公演にとても期待しています。

―長時間に亘り、お話していただき、どうもありがとうございました。

くしくもキムさんがおっしゃっていたように韓国と日本の関係は「近いようで遠い」ように感じるものなのかもしれません。
 今回の公演がきっかけとなり、少しずつでも両国の間が「近い」と感じられるようになることを願っています。
 どうぞ公演をご覧いただき、韓国で古来より育まれた伝統芸能の素晴らしさを感じて下さい。

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