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国立劇場5月文楽公演『ひらかな盛衰記』
豊竹嶋大夫77歳の挑戦!初役の「神崎揚屋」

5月文楽公演の第二部では、久しぶりとなる『ひらかな盛衰記』の二段目・四段目の半通しの上演です。宇治川の先陣争いに敗れて勘当の身となった恋人・梶原源太のために尽くす傾城梅ヶ枝の献身を描いた「神崎揚屋の段」を語る豊竹嶋大夫さんにお話をお聞きしました。

「神崎揚屋」の思い出

この「神崎揚屋」は、わたしの師匠である竹本越路大夫師匠が何度も勤められてきたものです。昭和63年に師匠が勤められたとき、「僕は体の調子が悪くて出られないかもしれないから、万一のために君に覚えておいてほしい」とおっしゃり、しっかりと稽古をしていただきました。そのときは幸いにも師匠は無事に舞台をお勤めになられましたが、そのときの稽古がいまだに忘れられません。

私はその後、吉原の松葉屋で行なわれた素浄瑠璃の会で一日だけ語っておりますが、本公演で勤めるのは今回が初めてです。いつかは本公演で語ってみたいと思っていたものなので、5月公演で語ることができるのを大変うれしく思っております。

傾城梅ヶ枝について

傾城といえば、仕事と恋は別と割り切っているのが普通なのでしょうけど、この傾城梅ヶ枝は「君傾城になりさがつても一度客に帯とかず」と浄瑠璃の文句にもあるように、恋人の梶原源太に操を立てて、お客のためには一度も帯を解いたことがないという一途な女性です。

梅ヶ枝は傾城という身分ですから、もちろん傾城の雰囲気は必要ですが、年は十七、八歳ですし、何より可愛らしさを大切にしたいですね。

梅ヶ枝は、愛する源太を一の谷の合戦に送り出すために、三百両の大金を工面しようと手水鉢を叩きます。これは小夜の中山の「無間の鐘」を撞くと現世では巨万の富を得ることができるが来世は地獄に堕ちるという伝説になぞらえて、「この世は蛭にせめられ未来永々無間堕獄の業を受くともだんないだんない大事ない」と必死の覚悟で、柄杓で手水鉢を叩くのです。すると、お金が二階の障子から降ってくるという奇跡が起こります。この奇跡を起こす梅ヶ枝の情念が、この物語の山場です。

今はなるべく歩くようにして体力の維持に心がけて、一回一回の舞台を大切に勤めていきたいと心がけております。5月は念願の「神崎揚屋」を語るのですから、体調管理に気をつけて初日を迎えたいと思います。