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平成23年6月民俗芸能公演「銀鏡(しろみ)神楽」現地レポート

平成22年もそろそろ終わりが近づいてきた12月半ば、平成23年6月民俗芸能公演で上演する銀鏡神楽の現地調査に行ってきました。

九州という土地柄、「暖かいかも」というほのかな期待は、宮崎に着いてすぐに脆くも崩れ、これから体験するだろう山の中の寒さを想像しながら車に乗り込みました。


銀鏡神社境内から見た山々

銀鏡神楽が伝わる銀鏡神社は、西都原(さいとばる)古墳で有名な宮崎県西都市の中心地より、さらに車で1時間ほど奥に入った深い山間に鎮座しています。
毎年12月12日から16日の間に執り行われる神社の祭礼で奉納される銀鏡神楽は、高千穂神楽や椎葉神楽などの宮崎県を代表する神楽の一つに数えられています。
神楽は祭礼期間中の13日の夕刻に式一番「星の神楽」が舞われます。
この舞により銀鏡の地主神である「宿神」が降臨するといいます。そして14日の夜8時頃から翌15日の昼過ぎまで、全三十三番の舞を奉納します。


準備が整った外神屋

祭礼は降臨する神々を迎える一年に一度の大切な日であり、銀鏡神社の氏子たちの手によって念入りに準備が行われます。
神社の境内に作られていたのは外神屋(そとこうや)と呼ばれる神楽を奉納する舞場です。注連縄や五色の御幣で飾られた外神屋の正面には、「ヤマ」と呼ばれる青柴で作られている垣があり、その前に山の幸や野の幸、猪の頭などを供える祭壇が設けられます。供える猪は、猟師たちが祭礼の一週間前から山に入って狩りをするため、年によってその数は変わるそうです。
そして「シメ」と呼ぶ、高さ6mにも及ぶ柱をヤマの中央に立てて、このシメから3本の綱を張り、外神屋の中央に「アマ」と呼ばれる天蓋を吊るします。

14日の夕刻、周辺の神社(宿神社、六社稲荷社、手力男社、若男社、七社稲荷社)から「神迎え」を終えた氏子たちが銀鏡神社に戻ってきました。「神迎え」は、それぞれの神社より神楽奉納に用いる面を迎えに行くことで、「面さま迎え」とも言われているそうです。銀鏡では神楽面そのものが神であると考えられており、このように呼ばれています。

こうして準備が整い、外神屋で式典が行われた後、いよいよ神楽奉納が始まります。


神迎え:銀鏡神社に戻ってきた所


式典の様子。背中に面様を背負っている

夜の静まり返った山々に神楽太鼓の心地良いリズムが響き渡り、拝殿より舞人が登場して式二番「清山」が始まります。
夜が更けていくにつれ、銀鏡神社を包む山々が闇と一体化していく中、外神屋の明かりはますます浮かび上がり、神楽を一層引き立てます。
神楽の場では、「西之宮大明神」や「宿神三宝荒神」など神々がお出ましになるものや、また「地割」を始め「幣指(へいざし)」などの勇壮な舞も演じられていきます。

ここでいくつかの演目をご紹介します。

式四番「地割」
剣の霊力によって土地の地(とこ)鎮めをする四人舞で、神が降臨する土地を踏み固めます。
神楽の中盤までは静かで厳かな舞い振りですが、後に楽(がく)が早調子になって舞が躍動的になる「乱れ」になると左手に鞘から抜いた刀、右手に鈴を持って勇壮活発に舞います。

式八番:西之宮大明神(左)と式十番:宿神三宝荒神(右)

銀鏡神社の主祭神である「西之宮大明神」、宿神社の御神体である「宿神三宝荒神」の神面は、銀鏡の地より持ちだすことができません。そのため今公演ではよく似た代わりの面を着けて上演します。

式十六番「柴荒神」
荒神は宇宙を創造した宇宙根本神が身を変えて現われた様。柴(榊の異名)だけでなく森羅万象全てが自分のものであって、断りもなく勝手に使ってはいけない、と怒り狂っている荒神と神主が問答を繰り広げます。
神主は、問答の末に荒神の納得を得て怒りを鎮めて神楽が終わります。

そして徐々に空が白み始めてきたころまるで図ったかのように、隠れてしまった天照大御神が岩戸から出て来た、という神話のストーリーを舞う式二十二番から二十四番の「伊勢神楽」「手力男命」「戸破(とがくし)明神」が行われました。こうして神楽は式三十一番「鎮守(くりおろし)」まで休みなく続けられます。

式二十四番「戸破明神」
写真左は神楽の前半で手力男命の化身がユーモラスに舞う場面。
写真右は二十三番「手力男命」と同じ面で、岩戸開きの場面。

式三十一番「鎮守」
シメから外神屋に張ってある注連縄の端を持って舞う。
天照大御神を始めとする天神地祇が勧請されているシメを倒す前に、神々には元の場所に戻って鎮まってもらい、村の安泰を祈願します。

 「鎮守」が終わった後、シメやヤマを崩して次の「ししとぎり」の準備をします。


シメ倒しの様子


ししとぎりの舞台になりました。

準備が一通り終わった後、外神屋より小高い位置にある本殿では銀鏡神社本殿祭が執り行われます。

この本殿祭が終わった後、昼頃から「ししとぎり」「神送り」が演じられて全三十三番の神楽奉納が終了します。

式三十二番「ししとぎり」
猪狩りの様子を演じる古い狂言の名残りを伝えます。“ししとぎり”とは、猪の通った足跡をたずねる、という意味です。

式三十三番「神送り」
顔と後頭部に面を付け、二人が臼を、一人が杵を持って、外神屋やその一帯をおどけて練り歩き社務所の台所に入ります。
他の祝子(ほうり:神楽の舞人)も一列になり、内神屋から台所へ向かい、竈の所で舞い納めとなります。

本当に寒い中での神楽奉納でしたが、舞人のきびきびとした所作や山々に響き渡る太鼓の音、そして闇の中に浮かび上がる舞場と、山の神と地の人々が交歓するに相応しい、厳かでありながらやさしい雰囲気を作り上げていました。

今回の公演では銀鏡神楽全三十三番の内、二十二番を1日2回の公演でご覧いただきます。山で暮らし、神々と共に生きる人々が、脈々と受け継いでいる銀鏡神楽を存分にお楽しみ下さい!