日本芸術文化振興会トップページ > 国立劇場あぜくら会 > 文楽三味線 鶴澤藤蔵さんを迎えて「あぜくらの集い」を開催しました。
5月11日、文楽三味線の鶴澤藤蔵さんとお茶の水女子大学の神田由築先生をお迎えして、あぜくら会限定のイベント「あぜくらの集い」が開催されました。今回の襲名は、藤蔵さんが相三味線を勤める大夫であり、父でもある源大夫師匠との親子同時襲名で、文楽ではとても珍しいこと。藤蔵さんが文楽の世界に入った経緯や、新・藤蔵を襲名しての抱負等の対談の模様をダイジェストでレポートします。
◇ 文楽に入ったきっかけ | |
文楽の大夫を父親に持っていると、文楽の世界に入るのが約束されているように思われがちですが、文楽の場合は歌舞伎と違って、文楽の家の子でも、見習いを経験しなければならないので、下積みの厳しい世界を経験している技芸員は、「こんなしんどい仕事、子供にはさせたくない」ということから、あまり文楽の仕事を継がせたがらないのではないでしょうか。 |
神田由築さん 鶴澤藤蔵さん |
藤蔵さん自身も子供のころにはこの世界に入ろうとは思っていなかったようです。そんな藤蔵さんが文楽の世界に入るきっかけを作ったのが、俳優の大川橋蔵さんだったそうです。ある時、橋蔵さんが織大夫(現:源大夫)さんに「あんたんところ男のお子さんは?」いますと答えたら、「文楽の世界に引っぱっりなはれ。年取ってから楽しいですよ」という話から、文楽を観に来ないかと誘われるようになったとの事。小学生の藤蔵さんは、舞台のことよりも、公演の後のお寿司等の食べ物につられて文楽を観るようになったようです。 |
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◇ 大夫でなく三味線弾きになったのは |
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初めは人形の方に興味があり、「人形をやりたい」と言ったら「人形はあかん!」と言われ「汗を流しながら絶叫する大夫はしんどそうだし。三味線なら…」といったのがきっかけで「自分は三味線をやるんだなー」と思いながらおじいさん(初代藤蔵)の録音を聴くようになり、次第に三味線に興味を持つようになったそうです。小学生には太棹三味線は大きすぎて持てなかったので、小唄、地唄の三味線で手ほどきをうけ、中学に入って義太夫節の三味線へと入って行きました。 |
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◇ 父(源大夫)の相三味線になった経緯は |
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父織大夫(現:源大夫)が九代目綱大夫を襲名する時に、清二郎さんを相三味線として指名しました。綱大夫自身も三十代での時に、父である初代藤蔵師匠が相三味線を買って出てくれ、鍛えられたそうです。しかし、清二郎さんと織大夫師匠では、文楽においての経験に大きな差がありました。 |
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◇ 実盛を弾くにあたって |
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今月の襲名披露狂言『源平布引滝』「実盛物語の段」の実盛は、浄瑠璃の基本のようなもので、九郎助と瀬尾という二人の老人をどう語りわけるかというところが聴かせどころで、三味線弾きにとっても勝負所だと思う。前半は三味線弾きが気持ちを抑えて大夫の女房役で、辛抱して辛抱して語りを支える。後半は三味線弾きが主導権をとってリードして段切りまで持って行く。ただ力任せに弾くだけでなく、緩急をつけた登場人物の心情を丁寧に表すような弾きかたを心がけているとのこと。鑑賞のポイント、聴きどころを詳しくお話いただけました。 | |
◇ 今後の三味線について |
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残されたおじさんの録音を聴いて、将来こういう三味線を弾いてみたいという憧れを持つようになったようです。今後弾いてみたいものは、時代ものでも世話物でも、いきを詰めてやるような義太夫が好きなので、『仮名手本忠臣蔵』の「九段目」や『伊賀越道中双六』の「岡崎」、『近江源氏先陣館』の「盛綱陣屋」などといった大物を一段やってみたいと思っているそうです。 | |
◇家族の風景 |
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最後に尾崎家について(藤蔵さんの本名は尾崎さんです)。芝居好きで役者になりたかった源大夫師匠が、吉村伊十郎の長唄や清元英寿郎の清元などを聴きながら、家族や来客と芸の話をしながらの夕食なので、四時間ぐらいは普通だったようです。生活全体が芸事に関係した状況であるとともに、家系も四代続く文楽の血筋。尾崎家の歴史については、お二人の共著「文楽の家」(雄山閣)に詳しく記されています。尾崎家の家族団欒のようすから、藤蔵さんが文楽に入るきっかけを作った大川橋蔵さんの言葉が、現実となっているご様子がうかがえました。今後のお二人のますますの活躍が期待されます。 |
藤蔵さんと親交のある神田さんが、上手く話を引き出して下さったおかげで、初代藤蔵の貴重な音源を交えて、芸談を含めた楽しいお話をたくさんうかがうことができました。また最後には、参加いただいた会員様からのたくさんの質問にも答えていただき、和やかな楽しい雰囲気に包まれた「集い」となりました。あぜくら会では、今後もこのような会員限定イベントを随時企画していきます。皆様のご参加をお待ちしております。