歌舞伎公演ニュース

2018年3月2日

くろごちゃんが紹介!
3月歌舞伎公演『梅雨小袖昔八丈―髪結新三―』
江戸時代の理髪師「髪結い」

 3月歌舞伎公演は、“四代にわたる芸の継承”をテーマに、『増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)』『梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)』を上演します。

 『梅雨小袖昔八丈―髪結新三(かみゆいしんざ)―』は、廻り(出張専門)の髪結い新三が材木問屋の娘お熊と恋仲の手代忠七を利用して一儲けしようと画策する様子を描いた世話物の名作です。作品を通じて、江戸の市井の風俗が写実的に描写されている中で、粋でいなせな新三が様々な表情を見せ、その魅力的な人物像が際立ちます。
 今回、くろごちゃんが江戸時代の理髪師である「髪結い」について史料を交えながら紹介します。

 
尾上菊之助の髪結新三とその道具箱


付き人:うわぁ、カッコイイね~! 菊之助さんが初役で勤める「髪結新三」、一体どんな芝居か楽しみ。ところで、くろごちゃん。「髪結(かみゆ)い」って、今で言う理髪師のこと?

(⌒v⌒):うん、そうだよ。ほら、この絵を見て! 江戸時代の滑稽本『浮世床(うきよどこ)』(文化10年~文政6年(1811~1823)刊)に、当時の髪結い(床屋)の様子が生き生きと描かれているよ。




式亭三馬 作、歌川国直 画『浮世床』(国立国会図書館所蔵)

付き人:うわぁ、なんだかとっても賑わっている~! お客さんが髪を結ってもらったり、ヒゲを剃ってもらったりしているね。世間話や読書をしている人も描かれているよ。きっと庶民の社交場でもあったんだね。時代劇でもよく目にするけど、男性は前頭部から頭頂部にかけて髪を剃りあげているね。

(⌒v⌒):これは「月代(さかやき)」と言って、成人した男性の髪型なんだよ。もともとは兜をかぶったときに頭が蒸れないように始まった風習らしいんだけど、こまめに剃らないとすぐ毛が生えてきちゃって手入れが大変! 月代の毛が伸びているのは恥ずかしいことだから、庶民は床屋に通って手入れをしてもらっていたんだ。ちなみにお店(髪結床(かみゆいどこ))を構えて商売する「床屋」のほかに、道具箱を持って得意先回りをする「廻(まわ)り髪結い」もいたんだよ。今回の芝居の主人公・新三もこの廻り髪結い、つまり、出張専門の理髪師なんだ!


廻り髪結い
 廻り(出張専門)の髪結いは、自分の髪結道具一式を持って得意先の商家などを訪問し、店の主人や奉公人の髪を結っていました。新三も持ち歩いている引き出し付きの道具箱は、髪結いの仕事には欠かせないアイテムです。日本髪の髪型は、襟足の「髱(たぼ)」、頭の左右側面の「鬢(びん)」、頭頂部でまとめて結う「髷(まげ)」などの部位に分かれています。髪結いは、それぞれの部分に応じた道具を使い分けて、スムーズに美しい髪型を造り上げます。



付き人:どうしてわざわざ出張しないといけないの?

(⌒v⌒):何かと忙しい大商店ともなると、接客上、身だしなみは大切だけど、奉公人が頻繁に店を離れて床屋さんに通うわけにはいかないでしょ。今回の舞台でも、材木問屋・白子屋(しろこや)で働く忠七(ちゅうしち)が「新三さん。今日は結い日ではあるけれど、取り込んでいますから、また明日にして貰いましょう」なんて言っているよ。

付き人:なるほど~、多忙な人たちには便利な出張サービスだったんだね! 「結い日」を決めて、定期的に来てもらっていたのかな。当時の料金って、いくらしたんだろう?

(⌒v⌒):江戸時代の風俗を伝える『街能噂(ちまたのうわさ)』(天保6年(1835)刊)によれば、上方と江戸で髪結いの相場は違っていたみたいだけど江戸は28文、大阪だと32文。廻りだと一ヶ月150文くらいかな? ちなみに油あげや焼き豆腐は5文とか。髪型をカッコ良く保つために、髪結床に毎日通う人もいたみたいだよ。

付き人:どんな髪型がはやっていたのかな?


平亭銀鶏 作、歌川貞広 画『街能噂』(国立国会図書館所蔵)


金錦佐恵流 作、恋川春町 画『当世風俗通』(国立国会図書館所蔵)

(⌒v⌒):江戸時代の洒落本『当世風俗通(とうせいふうぞくつう)』(安永2年(1773)刊)には、当時流行していた髪型がいくつか紹介されているよ。ちなみに、勇み肌でさっぱりとした様を表す「いなせ」という言葉は、日本橋の魚河岸(うおがし)の若者に流行していた「鯔背銀杏(いなせいちょう)」というスタイルの髷に由来しているんだ。鯔(ボラ)という魚の背のようにスッキリとした形の髷だとか。

付き人:へぇ~、面白いね。ところで、新三が提げているのは仕事で使う髪結い道具?


道具箱

 
(左から)髷棒と握り鋏(にぎりばさみ)、なぎなた、鬢出(びんだ)し2本、櫛(くし)

(⌒v⌒):そうだよ。上方と江戸で髪結いの持ち物は違っていたらしいんだけど、上の写真が新三の持っている道具箱。箱の側面に垂れている細長い紙は「茶半紙(ちゃばんし)」で、頭頂部で結う「髷(まげ)」を仮留めするためのものだよ。箱の上部に刺してる鉄製の棒は「髷棒(まげぼう)」で、髷の形を整えるために使うんだ。髪結い職人は、自分専用の髷棒を持っていて、自在に操れなきゃいけないんだ。

付き人:江戸時代の髪結い職人も、今に優るとも劣らず、様々な道具を巧みに使い分けていたんだね!

(⌒v⌒):新三は、この髷棒を髪に挿し、髪の根元を結い束ねるために用いる紐「元結(もっとい)」をつないで作った襷(たすき)を掛けて、舞台上に颯爽と登場するんだ。白子屋の店先でテンポ良く髪を撫で付ける演技は、みどころの一つだよ。ふだんは愛敬を振りまきながら、得意先を廻っている新三。でも、客の忠七のプライベートな話を立ち聞きして、その恋人をまんまと誘拐しちゃうんだ!

付き人:ちょっ! 待って、待って! それ犯罪じゃ……。一体どんな騒動になるのか気になるー!!

(⌒v⌒):実はね、新三はただの髪結いじゃなくて、過去に悪事を犯して牢に入ったことのある前科者だったんだ。その証拠に腕には入れ墨が……!?

付き人:裏の顔があったのか~。菊之助さんの新三がどんな表情を見せてくれるのか、今から楽しみ!

(⌒v⌒):菊之助さんの長男・寺嶋和史くんも紙屋の丁稚(でっち)として出演するよ。親方の使いで新三を呼びにやってくるんだ。親子共演にもぜひ注目してね!


チケット好評販売中
国立劇場チケットセンターはこちら ≫