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国立文楽劇場

アフォガートのあじわい

たきいみき

恥ずかしながら、「夏祭浪花鑑」はタイトルはよーく知っているのだけど、
物語自体は知らず、拝見するのも初めて、という今回の観劇でした。

なんというか。。。ラストの長町裏の段は。
みぞおち辺りに、見えない手が突っ込まれてきて、おなかの中をぐりぐりされた挙句に、ボーリングの球みたいに大きくて重たいものを残していかれたような、胃の辺りにぐぐぐっとくるお芝居でした。

それでいて最後、薄暗がりの中で起きる事件の重苦しい感じが、
それとまったく真逆の、賑やかで華やかな祭りの喧騒と重なった時に、
「あぁ、すべての人の営みとかって、表と裏、うまくいくこと・いかないこと、光と影で出来てるんだなぁ。。。」と、腑に落ちちゃったりして。
真逆のものが、重なった時に生まれる奥行きに、心も身体も、しびれたのでした。

ところで。突然ですが、アフォガート、って召し上がったこと、ありますか?
アフォガートは、バニラ風味のアイスやジェラートに、熱いエスプレッソコーヒーや
紅茶、リキュールなどをかけて頂くスタイルの、イタリアのデザートです。
熱々のエスプレッソをかけると当然、冷たいアイスは、めろめろっと溶けていくのですが、
しばらくするとアイスの表面にエスプレッソの薄い膜が凍って、パリパリとシャリシャリ。この食感、似ているものでいうとクリームソーダやフロートでご存知かと思います。
ここの部分が好きな方、多いのではないでしょうか。

バニラアイスの冷たさと、苦みのきいたエスプレッソのハーモニーは、大人の味

そう、今回の夏祭浪花鑑、観劇したあと、私の頭の中はアフォガートだったのです。


さて、今回の夏祭浪花鑑のお話は、主人公・魚売りの団七が、恩赦で牢屋を出てくるところから始まります。この恩赦を与えてくれたのが玉島兵太夫。
そして、物語の台風の目にあたるのが、この兵太夫の息子、磯之丞。
彼は、遊女琴浦と深ーい仲。
このふたり、物語の中盤では、磯之丞がほかの女子と仲良くしたぁ~、とか言って(実際は、磯之丞が別の女性と心中騒動を起こしているので結構深刻、今回の上演ではその部分は省かれていて、そんな風に見えたのですが、ちがいました。。。)喧嘩したりしてますが、
仲直りのために汗をかいてこい(ちょっと!大人味すぎませんかっ?!)と言われ、
手を取り合って去る瞬間の色っぽさには、完全に当てられました。
イメージでいうと、ここら辺が、甘味担当、バニラアイスの部分。

そして、団七、牢から出た直後はむさくるしいのだけど、床屋に行ったりなんかして
身なりもさっぱり再登場。見違えるようなおとこぶりが涼やか。
お人形の、手足が、ながーーーーーいんです。
続いて登場する、一寸徳兵衛も、手足がながーーーーーーい。
アニメのキャラクターみたい。ゴムゴムの実、食べちゃった?ってくらいに。
このふたり、敵の立場。出会いがしらの喧嘩の場面が華やか!
手足が長いって、見栄えするんですね。
喧嘩を止めに入る団七の妻、お梶の姿も粋。
恩や縁が、仲立ちして、男のキズナも深まっちゃう。
さ、エスプレッソの香りがしてきました。

徳兵衛の女房は、お辰。
簑助さんが遣っていらっしゃったのですが、色香がすさまじすぎて、
女である私が若干、いや、結構へこむほどの色っぽさ。
その色香が、磯之丞に付き添ってお国まで送り届けるという任務の妨げになるとわかると、うつくしいお顔に自らの手で焼鉄を押し付け、疵物にし、忠義を果たすという女っぷり。

侠客を引退して、お念仏と共に穏やかに暮らしている三婦というご隠居さんだって、やるときはやる。
磯之丞と琴浦をかくまっている三婦おじいさん。
琴浦に横恋慕してあの手この手で彼女を拉致しようとする佐賀右衛門が差し向けた手下を、ばばばーん!と、のしちゃう立ち回り。
信心の証の数珠をぶっちぎり、封印していた喧嘩の腕前と、姿のカッコよさ。

豆、焙煎、ドリップの三本柱が完璧な、エスプレッソの出来上がりで御座います。

ケレン味もたっぷりで、ワクワクドキドキしながら、あっという間に最後の長町裏の段。
ここからが、前述のとおり、なかなかにキツイ場面でした。

恩と義理、欲、愛情などなどなど。
いろんなもの、いろんな感情、いろんな関係に板挟み。
団七の舅・義平次は憎たらしくやればやるほど主役がたつ、と、初代玉男さんが好まれた役だったとか。
そう、義平次が責めさいなむことで団七のながーい手足の体が縮んだり伸びたりして、引き裂かれるような彼の感情を生み出していたことが、印象的でした。

仕方なく、本当に仕方なく、舅を斬った、あと、とどめを刺すまで、盛りだくさん!
斬られた後の義平次の人形のボロボロになる加減は、トラウマになりそうなほどですし、義平次が、なんでか、何度か、ひゅ~ドロドロと甦る演出は、私が小学生だったなら、夜中に一人でトイレにいけなくなるレベル。

人間の裏も表もが、見る側に突き付けられていて、なかなかにみぞおちあたりにグッとくる、非常に良いという意味で嫌な場面でした。そして。
熱く激しい立ち回りから一転、「悪い人でも舅は親、南無阿弥陀仏。。。」と弔う団七の心痛。

化学反応です。
正反対のものが入り混じり、そのあわいに、うまれでたもの。
アフォガートのシャリシャリっとした部分、の様なものが立ち現れたのです。
このおいしさは、食べてみないとわからない。
今回の夏祭浪花鑑は、観てみないと、わからない。

暴れまくる団七と、それを遣う勘十郎さんの明鏡止水の佇まい、
そのギャップがあまりに美しく、「あ、こんな部分にも真逆のものが!」と感動。
8月8日まで。
も一度、観たい、と思える舞台でした。

■たきいみき
舞台女優。大阪生まれ。
主演作に「黒蜥蜴」「ふたりの女」「夜叉ヶ池」(演出:宮城總)、「令嬢ジュリー」(演出:フレデリック・フィスバック)など。野田秀樹作、オン・ケンセン演出「三代目、りちゃあど」では歌舞伎や狂言、バリ伝統影絵などジャンルを超えたメンバーと共演の他、クロード・レジ「室内」、オマール・ポラス「ドン・ファン」など、海外の演出家とのクリエーション作品も多数。

(2017年7月22日第三部『夏祭浪花鑑』観劇)

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