50周年記念公演ニュース

2016年10月13日

【10月邦楽公演】特別座談会「国立劇場開場50周年を迎えて」
を行いました!

 10月邦楽公演は、国立劇場開場50周年記念の公演として、3日間(10月8、9、10日)の豪華特別版で行われ、大盛況で幕を閉じました。
 今回は公演に先がけて9月20日に行われた、邦楽公演出演者による「特別座談会」の様子をレポートします。

 ご登場いただいたのは日本の邦楽界を長年にわたって第一線で牽引してきた3人、常磐津節三味線方の常磐津英寿さん、山田流箏曲家の山勢松韻さん、長唄唄方の東音宮田哲男さんです。お三方とも重要無形文化財保持者(人間国宝)・日本芸術院会員というとても貴重な会となりました。座談会では、国立劇場が開場した当初からご出演いただいているお三方に、これまでの舞台での思い出や、ご自身の邦楽との向き合い方、そして50周年を迎えた国立劇場への思いなどを語っていただきました。ここではその一部をご紹介します。司会はアナウンサー・古典芸能解説者の葛西聖司さんです。


英寿) 国立劇場ができた頃、まず舞台の響きの良さに驚きましたね。外観も素晴らしく、今では周囲の植物とのバランスが実によい空間になっていると思います。
葛西) さて、英寿さんと言えば、本業の常磐津でのご活躍は言うに及ばず、様々な楽器や音曲を取り入れて作曲された“作曲家”の顔もお持ちですね。例えば箏を取り入れた作品がおありになると思います。
英寿) はい、実は子供の頃から三味線音楽の中に箏を入れて演奏してみたいと思っていましたが、実現ができたのは国立劇場のおかげです。本来、常磐津は浄瑠璃(語り)と三味線(旋律)の要素があって、三味線は地味に浄瑠璃を引き立てるもの。箏を入れて賑やかにすると浄瑠璃がつぶれてしまう。それを変えて新しい邦楽にするという試みをしました。ですからそれらは常磐津ではなくて、現代邦楽になりますね。
常磐津英寿
葛西) 数多くの作品の中であえてここで挙げるなら、例えば夏目漱石の作品でしょうか。
英寿) はい、夏目漱石の作品を題材にした『我輩は猫である』(昭和60年6月)や『夢十夜』(平成3年6月)ですね。『我輩は猫である』は、当初は演奏曲として作った作品ですが、花柳寿南海さんから「踊ってみたい」と言っていただき、実際に舞台で踊ってくださった(平成13年7月)ことはとても良かったです。振りを拝見してびっくりしまして、ここまで細かく表現していただけるなんて思いもよりませんでした。それまでは新曲を演奏する場はなかなかありませんでしたから、国立劇場に新しいものを取り上げてもらえたことは良かったです。
葛西) 作曲というお仕事で言えば、歌舞伎公演の『嫐(うわなり)』(昭和61年1月)もそうですね。
英寿) はい、この演目は歌舞伎十八番の一つなのですが、約200年も上演されたことのない演目ですから、現代では誰も聞いたことがないものを復活して曲にするというのは、本当に大変なことで苦心惨憺でした。しかしおかげさまで連日大入りとなり、苦心の甲斐がありました。
葛西) これからの国立劇場に期待することはどんなことでしょうか。
英寿) 常磐津にはなかなかお客様が普段お聴きになる機会のない曲がまだまだ沢山ありますから、そういった曲を上演する企画が続いていくことを願っています。そのためにもお客様にどうやってこちらを向いていただけるかを考え続けることが大事だと思っています。

葛西) 山勢さんの国立劇場での舞台の思い出をお話ください。
山勢) 国立劇場でなければできない企画ということで、今では珍しくなくなりましたが、生田流の箏曲家と山田流の箏曲家を組み合わせて演奏するという機会がありました。印象深いのは生田流の曲の『笹の露』(平成13年1月)を演奏した時に、生田流の藤井久仁江さんが三絃で、私は箏を弾かせていただきました。自分の流派の曲ではないのでもう大緊張でした。
それと邦楽の公演ではありませんが、大劇場の歌舞伎で1ヶ月間の公演にも出演したことが印象的です。
葛西) 『十返りの松』(平成21年1月)ですね。
山勢) もう先代と言っていいのでしょうか、芝翫(7代目)さんがとてもご立派でいらっしゃいました。
山勢松韻
葛西) 歌舞伎が行われる大劇場は、(邦楽鑑賞会が行われる)小劇場と舞台の大きさも全然違うので、普段とは違う難しさもおありだったかと思います。
山勢) 芝翫さんは本当に芸格の大きい方で、客席からも沢山の拍手が贈られていました。息子さんやお孫さんたちと一緒のご出演でもあり、いい舞台に出させていただいたと思っています。
葛西) これからの国立劇場にかける期待はいかがでしょうか。
山勢) そうですね、箏曲は長唄や常磐津、清元などとは違い、舞台で発展してきた音楽ではありません。もともとは大名や裕福な商人の子女の教養として伝わってきたものですから、現代において脚光を浴びて舞台演奏を聴いていただけることは大変ありがたい一方で、戸惑いもあります。だからこそお客様には沢山観て聴いていただき、親しんでいただけたらいいなと思います。野球やサッカーもそうですが、ある程度観ていないとその面白さがわからないというのはどんなこともそうだと思いますから、劇場には箏曲の出る場をこれからも多く作ってもらえると嬉しいですね。

葛西) (国立劇場開場記念式典での『翁千歳三番叟』の映像を見ながら)宮田さんは50年前この舞台に出ていらっしゃいますね。
宮田) 翁が市川寿海(3代目)さん、千歳が尾上梅幸(7代目)さん、三番叟が中村勘三郎(17代目)さんでした。私はまだ若くて、当時の最高の長唄の方々の中に並びまして大変緊張したことを覚えております。立唄が芳村伊十郎(7代目)さん、立三味線が杵屋栄蔵(3代目)さんでした。
葛西) さて、宮田さんも新しい邦楽に携わっていらっしゃいますね。
宮田) 『切支丹道成寺』をやらせていただいたことが印象に残っております。平井澄子さんの作曲です。平井澄子さんは箏曲を始めとして、東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)では宝生流能楽を専攻されるなど幅広く修練なさった方で、この曲は三味線がないという曲ですから、オルガンで唄いました。
東音宮田哲男
葛西) 当時はまだ学生(東京音楽学校邦楽科)でいらっしゃったかと思いますが、大抜擢だったのではないでしょうか。
ところで宮田さんも歌舞伎へのご出演の機会がおありですね。
宮田) 国立劇場ではありませんがアメリカでの歌舞伎公演で、当時の勘三郎(17代目)さんと勘九郎(18代目勘三郎)さん親子の『連獅子』に出させていただきましたが、間狂言にも中村富十郎(5代目)さんが出ていらっしゃったりして、海外の方の反応はとても良かったですね。
葛西) これからの国立劇場に期待することはどんなことでしょうか。
宮田) 国立劇場にはこれから後も、最高の演者が並ぶ舞台であってほしい、出演する邦楽演奏家にとってのステータスシンボルであってほしいと思います。あとはいかにお客様に興味をもっていただくかということが重要だと思います。

葛西聖司
座談会の様子

 お三方の芸歴についてのお話の中で、ここに紹介した以外にも数多くのエピソードで、時代時代を代表する名人上手の名前が挙がっていました。邦楽界のみにとどまらず、戦後の伝統芸能に深く関わってこられた方々ならではの貴重なお話でした。

 そして50年積み重なってきた歴史が、これからの舞台に受け継がれ、未来へとつながっていくことが期待されます。国立劇場開場50周年記念・次回の邦楽公演は来年1月14日(土)、15日(日)「邦楽鑑賞会―長唄の会・三曲の会―」です。演目と出演者も決定し、山勢松韻さん(15日三曲の会『葵上』)、東音宮田哲男さん(14日長唄の会『都風流』)も10月に引き続き出演しますので、ぜひご期待ください!みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

※文中の演目の後ろにある年月は、国立劇場で上演された時の年月を記載しています。


公演情報の詳細はこちら
国立劇場1月邦楽公演「邦楽鑑賞会―長唄の会・三曲の会―」

電話予約・インターネット予約開始11月11日より
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